話題のニュース
尻P(野尻抱介) ‏@nojiri_h · 1時間1時間前
赤色矮星の地球型惑星。「沈黙のフライバイ」の想定と同じだ >> 液体の水が存在？　地球によく似た惑星、わずか4光年の「近所」で発見 - ITmedia ニュース
https://t.co/g3ddacgcX3

赤城さん ‏@bauxite_tabetai · 23分23分前
新型ＮＳＸと共に配備される新型ＦＴＯは
無重力状態での船外活動を想定した探査ロボットです。
４光年離れた地球型惑星に活路を求め命がけのヴォヤージュ…え違う？

talkyren＠美術解剖学困惑中 ‏@talkyren · 24分24分前
4光年外の地球型惑星かぁ…ボイジャー1号の速度（約17km/s）で軽く計算したら7万年掛かるねｗワームホールの開発はよ！

　舞台。喫茶店かスナックの風景。
　中央やや左から右手壁まで木製のカウンター。
　スツール椅子が４つくらい並んでいる。

（手前にボックス席３つ４つある設定だが、広さによっては作らなくてよし。）

　左手サ店の出入り口から袖までは１ｍくらいの間がある。
　ドアは洒落た作りの木製。
　ドアとカウンターの間は斜めになっていて、大きなガラスばりのウィンドー。
　そこにも１つボックス。

（上手ソデよりここへ抜けられる通をを作っておく。）

　カウンターの下手はしレジとくぐり戸。
　上手壁にあっさりしたテーブルライトひとつ飾りについている。

　ドア、ソデから開閉もできる仕掛け。カウベル。



（上手ソデよりカウンターへ、マスター登場。グラスをみがきはじめる。）
（ドアひとりでひらき、カウベルの音。）

マスタ：　いらっしゃいませ。

ｳｪｲﾄﾚｽ：　いらっしゃいませ。

（上手ソデから慌てて出てきて）ご注文は？
（オーダーをとるジェスチャー。マスターに伝え、運んできて置く。）

（※ボックス席なしの場合は、すべてマイムだけでもよい。）

（そうしている間に）

マスタ：　９５０円でございます。

（ドアひらく。）

ｳｪｲﾄﾚｽ：　ありがとうございましたァ！

（効果音：アベックの笑い声が遠ざかっていく。）

マスタ：　やれやれ。混みだす前にすこし一服したら？

ｳｪｲﾄﾚｽ：　はぁい。（出て行った客のテーブルを片付けてカウンターへ。）

（間）

（ドア開き、女１、顔だけのぞかせる。）

女１　：　かおるは？

ｳｪｲﾄﾚｽ：　え？

女１　：　かおる来ています？

ｳｪｲﾄﾚｽ：　え…えぇ～と、今いるお客様はこれだけですけれど。

女１　：　そう。（室内に入り、慣れたようすでカウンター一番奥の席に腰をおろして）ミルクティー。

マスタ：　失礼ですが、その席は、お客さま、

女１　：　かおるの席よね。

ｳｪｲﾄﾚｽ：　え？

マスタ：　ええ。そうです。

女１　：　かおるがいつも座る所って、ここなのね。ふうん。そう。

マスタ：　（茶わんを洗いはじめる。）…良く見えるでしょう？

（間）

女１　：　ええ…　本当にそうね。

ｳｪｲﾄﾚｽ：　…あの…　何がですか。マスタ。

（間）

女１　；　お店の中がよ。世界中がよ。かおるを大事にしてくれる…
世界中がよ。

ｳｪｲﾄﾚｽ：　はあ…　（自分で紅茶を入れ、出す。）

女１　：　（唐突に）あなた、最近入った人？

ｳｪｲﾄﾚｽ：　（うなずく。）

女１　：　かおるを知らない人って…　いるのね。

（ドアひらく。）

マスタ：　ありがとうございました。

（くぐり戸を抜けてテーブルをかたずけに行く。レジで会計して、再び皿洗いに戻る。）

（ドアひらく。）

ともこ：　マースタッ ☆

のりこ：　うわぁ寒いっ！　寒かったのおっ！

ゆうこ：　ブレンドコーヒーちょおだあい、マスタ。うんと暖ったかいやつねっ！

マスタ：　舌をやけどしますよ。

（ともこ、のりこ、ゆうこ、女１を見てハッとし、やがて疑いぶかそうに、行こうとしていたいつものカウンターではない、ウィンドー下のボックスに腰をおろす。）

（マスタ、しらぬ顔。ｳｪｲﾄﾚｽちょっとおどおどしてブレンドをはこぶ。）

ともこ：　（声をひそめて）え、だって…　年がちがうじゃない。そりゃ似てるよ。あの頃のあたしたちくらいよ。

のりこ：　２８～９に見える。

のりこ：　今ごろあの彼女がいるわけないわよお。

ゆうこ：　でも…　ホントに似てるわ。３つくらい、お化粧でごまかせるかもしれない。

のりこ：　おけしょー、してないよ。

（ドアひらく。）

たつお：　やっ。おまっとおっ！

（’女１に気づき、３人と同じ反応）

たつお：　どしたの？　彼女。今ごろ。

ゆうこ：　あなたもそう思う？

たつお：　え？

ともこ：　あの人…　彼女だと思う？

たつお：　だって。そうだろ。他にどう…

（すばやく首をめぐらせる。間。）

ｳｪｲﾄﾚｽ：　ご注文は？

たつお：　あ、わりい。いつものやつ。

ｳｪｲﾄﾚｽ：　コーヒーですね。

ともこ：　も、よそおよ、気にすんの。他人の空似かもしんないし。もし彼女だとしてもここに入ったのきっと偶然なんだろーし、さ。

のりこ：　昔と同じ手を使うわけね。

たつお：　イヤなやつは無視するに限るのさ。

ゆうこ：　…でも。あれからもう３年もたったのよ。

ともこ：　３年でも１０年でも。いやなやつはいやなやつよ。変わりゃしないわ。

たつお：　それよかさ。聞いてくれよ。今日の講義さ、ひでェたらねえの。ますお教授がさぁ…

（ドアひらく）

女３　：　ちはーっ!!　あれ、どないしたんおたくら？　いつもとまえと席ちゃうじゃんっ！

ともこ：　ま、ちょっとね。

女３　：　かおる来てない？

ゆうこ：　（ちらっと女１の方を気づかって）　かおるは…　最近ここにはこないわ。

女３　：　そっか。あたしもここんとこ、こんとこの店にはごぶさただもんね。じゃ、また。

（ドアとじる）

女３　：　あーっ。はるみ！よしゆき！　ひっさしぶりーっ！　ねえねえ、かおる知らないっ？

（退場）

たつお：　…あーかわらずにぎやかーっっ

のりこ：　あのこどこ行ったんだっけ？

ともこ：　さあ。

ゆうこ：　ＯＯ女子大よ。

女１　：　（遠く。）　マスター。わたしはいつもここへ来たかったわ。

（ボックスの４人、ぎょっとしたように首をまわす。）

女１　：　わたしいつもここへ来たかったの。学校の行き帰り、いつもそこの窓からこのお店をのぞいてたの。目立たないよう、わざと急ぎ足で顔そむけるようにして。ノートひらいたり単語カードめくったりしながら。
いつも横目でこのお店をながめていたの。

（４人、つつきあって、そそくさと席をたつ。）

ゆうこ：　やっぱり

ともこ：　出よ。

たつお・のりこ：　ん…

ともこ：　マスター。ツケといてね。

マスタ：　…………。

ゆうこ：　やっぱりそうなんだわ。やっぱり…

（ドアしまる。）

　深夜。読書に疲れた頭がようやくベッドの暖かさに火涙まどろみを感じはじめた頃。

「先生さま!!　先生さま！」

　突然の物音にわたしは驚いて飛びおきた。

　馬の倒れるようなにぶいドサッという響きがする。

「先生さま!!　先生さま!!」

　呼びかける声に、まかないのゲルトーレの悲鳴が和した。

「先生さま!!　いばら木館のカウプトでございます！　お嬢さまが、お嬢さまの御客様が普通ではございません。後生でございます先生！　丸一日と半夜２日２晩馬をとばして参りました！」

　むろんのこと館の執事の声を最後まで聞くひまもなく、わたしは往診用の上着にそでを通していた。

「ヤーハン！ヤーハン！　鞍の用意だ。それが済んだらカウプトさんの馬を！　ゲルトーレ！」

「はい！」

　老執事は根つきたのか、きつけをうけとって半気絶の状態である。

　折から雲行きあやしい季節はじめの嵐の中を愛馬をせかして走ること１日と半夜。

「先生さま！」

　山奥の邸からは待ちかねたように人影がとび出してきた。

「シューラの容体は？」

「先生さまは走りづめで？」

「わたしはまだ若いから大丈夫だ…　容体は！」

「妙なのでございます。もうこれで３日４晩たいへんな高熱でございます。それなのにうめきも苦しみも…　１睡もなさらないのでございます。ただじっと横たわっておられて…　話しかけても聞こえている様子ではございませんし、もちろん１口もめしあがりません。」

「原因は？」

「いいえまったく」

タロンと柔、檻（ケージ）の中で。


　　　捕われた者


　タロンが捕えられ、繋がれてから、４日がたとうとしていた。

「今日もまた…か。」

「ああ。見ろよあの面構えを…　瘠せたな。」

　今日もまた牢番たちはしつこく食事を取り替えに来る。

　タロンは頑として１度座した箇所から動こうとさえせず、食器が置かれる時にたてるカチャカチャいう音にも、眼線ひとつ、くれてやりはしなかった。

「それにひきかえ…」

　同じ檻（ケージ）の中には、柔（ジュウ）、と呼ばれるしおたれ者も、これは暴れぬが為に縄目を受ける事もなく、大人しやかに、いやむしろ浅ましいまでの姿をさらして、与えられるエサにがっつき、足りないひもじいとあわれっぽく牢番どもに泣きついているのだった。

「おらよ。これでも喰え。」

　タロンが手をつけずにいて半ば腐らせてしまった肉片がその柔の鼻面に蹴り飛ばされる。

　柔はその衝撃にぎゃんぎゃん喚きながら、それでも苦痛がおさまると、卑屈にも、その屍肉をきれいにたいらげてしまうのだった。

　自らの尊厳死を前に、タロンはそんな同類の姿を静かな態度で黙殺しきっていた。

　　　２匹のねずみ


「おやあれはなんだい。見たとこ電気もガソリンも使ってないようなのにコトコト動くね。」

「あれかい。あれは水車小屋だよ。小川の力で動くんだ。あんなもんがめずらしいのかね。」

　そう答えておっほっほと田舎のねずみは笑った。

　別に田舎のねずみは都会のねずみをバカにしたわけなんかじゃなく、ただ何でもよく解っている頭のよい、わけ知りの街ネズミにお知らない事というのはあるのだなァと思ったら、なんとなく心暖かく、楽しかったのだ

　だけど都会のねずみは、そうはとらなかった。

「…危うく最後までだまされる所だったぜ。おまえがあんまり人間臭く深刻ぶってたからな。だがな、よく聞けよ。本当の人間ならそうそういつもおおげさにかまえちゃいられねェもんなんだ。最上段にふりかぶってシリアスさを振りまーすなんてェな一生に一度で沢山だ。ほんまもんの生きて動いてる人間ってやつは日頃ズッコケてるからこそ、いざって時に信じられねェような力がでるんだよ…。」

　　　くつのおばあさん（仮題）


　こんな話をしても誰も信じないだろうな。

　あたしには…まあ類は友を呼ぶとはよく言ったもので…昔から妙な知りあいとばかりつきあいがあるのだけれど、それがなにも人間だとばかりは限らない。妖精小人の一族といえばいいのか太古の種族の生き残りなのか、ひとりとても年をとった小さなお婆さんの知りあいがいて、どれぐらい小さいかというとよくあたしの防寒ブーツのなかにすっぽり座りこんでは昼寝をしている。あったかくて居心地がいいのだそうだ。

　もう何代も前の住人の頃から、今はあたしのものになったこの部屋（アパート）の、靴箱の奥に住みついているらしい。これまでの人は、みぃんな彼女と『そりが合わなかった』とかで、正体不明の座敷童子現象を勝手に気味悪がってすぐに出て行くか、暗に彼女の魔法でいびり出されたか、どちらか。…どうりでこんないいところの部屋代が安くなったわけだ。大家さん、お気の毒に。

　幸いにもあたしは無事彼女と共存体制を確立し、のうのうと棲みついている。

　ん、あたし？　そう、作家志望なんだよね、これでも。

「う～～。そういやこんどの新人賞のネタ、どうしよう。」
　ある晩のことだった。例によってコタツにもぐりこんで原稿用紙どうしてもうまくいかない第４章と格闘していると、熱中のあまり辞書をひきよせるはずみに紅茶ポットをぶちまけてしまった。

　きゃー！

　もちろん、生命より大事な原稿用紙だけはすぐに抱えあげたから無事ですよ。だけどコタツカバーとじゅうたん、べしゃべしゃ。あや～～～。

　と、おかしいじゃないか、いつもならシャクにさわる高い声でキィキィ、まったく、アキコ、誰が掃除をすると思ってるのいるんですか、と実家（うち）の母親（おかん）よりも口やかましい彼女が、静かにしずか～に生気のないため息をついて後かたづけに立ちあがった。

　あれえ？

「ねェ、ロンドン、どうしたの。いつもの御説教はなし？」

「わたくしあたしの名前は********ですよ。いつも言っているでしょ。えげれすの首都みたいななまりで呼ばないで下さいね。」

　おっ。可愛気のないところだけは健在だな。

　んなことを言ったってあたしにはそれ、ロンドンか、ドンドンて風にしか、聞こえんわぃ。

「だからそりゃ日本人間には発音は無理なんだってば。」

「そんなことがあるものですか。あたしには、ちゃんと日本人間語がしゃべれているんですからね。まったく人間ときたら自分たちのことにしか興味をむけないで……ああ、ああ。おｋれはもう完全に染みになりますよ。とにかく早く洗わないと…　ほらほら、さっさと上のものをどけてどけて。」

「あ、うん。」

　自慢じゃないけど、家事は不得手だし、運動神経はトロいのだ。あたしがもたくさとコタツ板をはずしにかかっていると彼女はさっさとカバーひっぺがしてまるめて洗濯機に直行してしまった。

　あの小さい身長３０cmに満たない体でどうしてそういう芸当ができるかといえば、もちろん半分は魔力を借りてるからだ。

　洗濯機にたてかけたはしごをよじのぼりながら、だけど彼女は小さなため息をついた。

「まったく、人間（アキコ）ときたら、これじゃあたしがいなくなってしまったら、どうなるのかしらねぇ。」

「え。ちょっとロンドン。」

「あたしの名前は********ですよ。」

「んなことはいいからさ。いなくなっちゃうって、それ、どういうことよ。どっかに引っ越そうっての？　人間（あたし）に、見つかったから？」

　…やばい。明日っから何食べて行きていこう。まともな料理がつくれない。

「その程度ですめばいいんですけれどねぇ。」

　彼女は、とっても暗あく、呟いた。

　　　つれて帰って。

　　　imaging from Bonny Tiler " Take me back "



　俺が彼女に頼まれたのは三日前、旅の終わりの嵐の晩だった。彼女を愛していたので、乞われるままにその行く先の判らぬ放浪に長いこと俺は同行（つきあって）いたのだ。

　風雨を裂く稲光に折しも浮かび上がる不気味な黒い城市を指して彼女は言ったものだった。

　　　「いつかある日に」


「いつか自由になるんだ。」

彼女はいつもそう言って夢を語る。

「そうしたらわたしは、何物にも捕われず縛られず、ただ水のように風のように、あるがまま、流れてゆくのよ」と。

それが、彼女が大人になった時の事なのか、それとも彼女の言う『何回も何回も』生き死んで、生まれ変わった後の事なのか…？

「そうね。」

と彼女は答える。

「それがいつの事かは、わたしにもわからない。 "いつか" …。魔法の言葉よ。だけれど "いつか" は必ずやって来るんだわ。」

彼女は信じてる。だからこれは真実なのだ。

「自由になったら、それは完全な自由よ。」

彼女は口癖のように謳（うた）う。

「わたしはなににも捕われない。だれもわたしを縛る事はできない。わたしは自分以外のものを何も持ちはしないし、だれかがわたしを持つ事もないわ。…ただ、『あの人』を除いてはね。そうしてわたしは一人で、あの人を探して世界中へ旅するのよ。時も権力もお金も、世間も、なにものもわたしを止められやしないわ。なぜってわたいはその時、自由なのだから。」

「一人で淋しくはないかって？　バカね。」

光の中で彼女は純粋に笑う。

「自由の代償は孤独。でも切ないのは今でも同じよ。わたしは哀しくはならないの。どんなに寒い時でも。」

「だってわたしの中には灯がともっているんですもの。わたしはあの人…わたしのただ一人の他者を探しにゆくのよ。それは、今すぐに会いたくて、切なくて、涙をこぼしてしまう日もあるけれど、時が来ればいつかはきっと巡り合えるわ。だってその人はいるから。」



「素適なのよ。自由だって事は。」

街を行く時に彼女はささやく。

「ハンドバッグ一つとスーツケースよ。自分以外にはそれだけを持って、わたしは街から街へ歩いて行くの。闇色の夜汽車から、見知らぬ町へ降りたちましょう。霧の深い道を、どこまでもただ歩きましょう。誇り高きジプシーたちと、一やを共に歌い過ごして、初夏の夕辺には、さくらんぼを籠いっぱい、買って宿まで食べましょう。」

　　　汽車から降りたつ人


　T.K.の両親は高地で半ば療養所（サナトリウム）めいたペンションを経営していて、その高地というのがまた最寄りの駅のある市街からたっぷり小一日は離れた所にある。それでペンションへ休養しに来るお客を迎えに出るのはいつも一人っ子のT.K.の仕事になるのだった。

　この日もT.K.は駅のホームへ入って汽車の到来を待っていた。

　T.K.は汽車を待つのが好きだ。待つ時の、少し緊張し少し手持ちぶさたなこの十数分が、何とも云えずT.K.の心をときめかせるのだ。…しかも今日のお客ときたら！

　遠くの方から特徴ある汽笛の音が聞こえる。長く、かん高く、叫ぶようでいて…　どこか甘くせつない。

　T.K.はもうずっと以前から、その響きに "郷愁の笛" という名前をこっそりつけていた。

　長い旅を続けてゆく列車が新しい駅に近づく度に、こここそが自分の故郷、自分の目的地なのではないか、ここで自分は終着駅を見いだし、そして長い眠りにつくことができるのではないか。と、まぼろしのような希望を燃やす、ほのかな吐息なのだ。

　のどかさ一点ばりの平和な片田舎には珍しく、T.K.は詩的な表現の好きな、たいそう夢見がちな性格をしていた。

　にぎやかな蒸気とともにそれはホームにすべりこんで来る。

　そこが全てを終る場所ではないにせよ、はるかな道のりのさなかにひととときの憩いと安らぎとを得て、停止しようとする車輛の列はとても心地良げに見える。

「ミズ・モイラ・シアネ・アスタテクルトン！　アスタテクルトンさんはいらっしゃいませんか！」

　T.K.はホームの前の方へ向かって走りだした。

「アスタテクルトンさん！」

　それから不意に立ち止まる。すれ違った紳士が危ないじゃないかとかなんとかうなってゆくがそれも耳に入らない。

「…モイラ．A!!」

　それは直感だった。M.C.アスタテクルトン…T.K.の憧れの女性…は幾つかの著書よりもなおその姿を人に知られていない。

　かく云うT.K.だってかつて２次元ピクチュアでさえ彼女の肖像を目にしたことはない。のだがそれにしても一目見れば十分だった。

　白い肌、黒い髪。（この地方（あたり）では黄金の肌に褐色の髪が普通だ）

　黒い瞳。

　ふうわり夢みるように風にゆれる白銀のワンピース。

「…おむかえの方？」

　少し楽しげにT.K.に笑いかける。

　大きめの革のショルダーと中型くらいのスーツケース。

「え、ええ…」

　T.K.はみるみる顔に血がのぼるのを感じてうろたえる。…しっかりしろ、T.K.！

　すらりとした姿の若い貴女は一番前の車輛からホームへと降りたった。

「はじめまして、モイラ・シアネ＝アスタテクルトンです。むこう６ヶ月間よろしくお願いいたしますわね。」

　彼女は美しい笑顔で真っ直ぐにT.K.をのぞきこむ。

　まるで宇宙そのもののように黒くて星を含んだ瞳だ。

「あ…、あ、アノ、…」

　なめらかな彼女の言葉にひきかえ、T.K.のはまったく会拶とは呼べないシロモノだった。しどもどと、それでも歓迎していることと、T.K.が知る人ぞ知るモイラ.Aの非常に熱心なファンであることだけは伝わったらしい。途切れとぎれのつたない讃辞に "アスタテクルトンさん" …「モイラ、で十分でしてよ。」…は意外にもはにかんだように頬を染めた。

「、まあ…　私の本を？　ありがとうございます。楽しんで読んで頂けると私も嬉しいですわ。」

　おかげでT.K.ときたらますますカチコチにあがってしまうのだ。

「荷物は？　他の…」

　女性の腕からスーツケースを預かろうとしつつ尋ねる。

「ありませんわ。これだけですの。」

　モイラ.Aはあっさり云う。

「、へ?!」

　…ひどく間のヌケた顔だぞT.K.!!

「やはり驚かれます？　１年間の滞在に荷物がこれだけと言うと。
でも、これ、私の全財産ですのよ…　あまり長い間、旅から旅への生活を続けていると、どうしてもこうなってしまうのです。」

「あ、そんなモンなんですか。」

「ええ、そんなものなんですわ。」

　清楚な異邦人は穏やかに微笑したままだ。一陣の風が彼女に迎意を示すかのように走りぬけて行く。さらりと音もなく漆黒の長い髪が舞いあがり、ふたたび静かになってなめらかに腕や肩にまといつく。高原の新雪のようにけがれを知ることのない素肌。石炭のようにつややかに光を吸いこむ髪。

　明と暗のなんというみごとなコントラストだろう！

　ホームの２人の脇で小さく汽笛がなった。２人は歩きはじめた。

「…慣れない汽車の旅でお疲れなんじゃないですか。怪我の後静養ということでしたよね…もしかして２年前の事故の？　…ここから高原まではまだかなりあるんです。体に障んないといいんですが、」

「、事故のことをご存知ですの？　どのくらいかかりますかしら。」

「そう…馬車で４時間ってとこです、楽な方の道で。光世紀船ザナドゥとランディの２万人を乗せての接触（ニア・ミス）事故。あのニュースはこんな辺境惑星（どいなか）までもあっという間に伝わってきましたよ。同星籍の超級光世紀船どうしの事故なんてそうそうあるもんじゃないそうですから。

　で、偶然、ニュースパックに映った乗客名簿の一部にあなたの名前をみつけて…その後、予定されてた画集が出なかったりしたので、あ、こりゃ間違いないなと。…ひどい怪我だったんですか？　治癒に２年もかかるなんて。」

「あれは不幸な事故だったのです。」

　不意にかたい声になって姫君はつぶやく、「とても不幸な。」

　それから静かな表情をとり戻して、

「すてきですわ。私、馬車って一度乗ってみたいと思っていましたの。」

　T.K.はかなり面喰ったが黙っていた。改札をぬけ、駅前の広場を横ぎり、車溜めで馬車の荷台に荷物を放りこむ。

　街から郊外へ、郊外から田園へ。そして無人の高原地方へ。

　秋の収穫（とりいれ）がようやく終わろうとしている黄金の世界を馬車は静かに走っていった。

「不思議人」（ふしぎびと）とか「不思議の旅人（たびと）」とかいう言葉を、モイラ.Aは、彼女のような生き方をする人々を指す時によく使った。

　高原の冬は静寂と談話にわけられる。雪と暖炉とにと云ってもいい。モイラ、は陽のある時にはいつも１人で戸外に出ていたが、雲の多い日や吹雪の晩には、病人用のスチーム暖房ある個室へは戻らずに、必ず火の燃える食堂兼居間で過ごした。

　彼女は宇宙や惑星やスペースコロニーといったものを様々に見てきている。一生をこの星のこの地方からさえ出ずに終る小さな高原の村の人々にとって、長い冬にこの美しいエトランゼの存在は喜ぶべきものだった。大人にも子供にも彼女はあたたかく迎えられた。

　話しの内容から推して彼女が見かけよりはずっと長い年月を経てきた人間だろうというのは誰でもの共通の意見だった。構わないじゃないか？　宇宙でどんなことがおころうと、わしらにわかるもんかね。彼女は身の上話だけはけしてしなかったけれど、もちろんその方が謎めいていて魅力的だった。

　それからモイラ・シアネ＝アスタテクルトンという女性がなにをしている人間なのかということも村人たち同士のあいだではよく空想と議論のタネにされた。もちろんT.K.のものであるモイラ.Aのサインの入ったレコードやちょっとした画集、紀行文や詩の本などは村のあちこちでまわし読みされていたが、いつかモイラ自身もそう言っていたように、そういったものは趣味がたまたまお金になったというだけのことで、なにで生計をたてているかということにすぎない。それにモイラには皿洗いのバイトから従軍看護婦まで、ありとあらゆる職業の経験があるようだった。

　興味の対象になったのはなにで生計をたてているかということではなく、何の目的で女１人宇宙を旅し続けているかということなのだ。

　『不思議人』とか『不思議の旅人』とかいう言葉を彼女は物語る時おりに口にした。目的はそれぞれ異ることが多いけれど、彼女のようになにかあるものを求めて放浪う生き方をする人々をさして言う。

「出身地も、生いたちも、むろん性別なども皆まるで違うのです。ただ私たちには、ある種の共通点と云うか独特の雰囲気があって、そのおかげでお互いに仲間であるということが解るのです。人によってはそれを『謎をもつ人々』の『問いかける瞳』とも呼びます…」

　炉端で、あるいは雪の樹林や荒野のなかで、問われるままにいろいろな事を語り、子供らの遊び相手をつとめ、つれづれに民族楽器の扱い方などを習いながら、彼女はとても穏やかで平和な人に見えた。それは太陽や初夏の風のようにというわけではなかったが、木陰の白い花、夜空の小さな星のように、モイラ.Aは幸福だったのだ。

　談笑や、時おりの静かな歌声とともに野山に雪は降りつもってゆく。

　そろそろ雪割草のひとつも見えるのではないかと子供たちは毎朝心当たりを掘り返しては見ていた。

　モイラ.Aはとてもいい声をしていて、毎日の散歩の森の中で歌っていた。それから、せがまれて皆の前でも。

　もの悲しいのや楽しい小唄やどんな曲でも彼女は詠ったし、また実際、数えきれないほどの数を知ってもいた。ただ、彼女は、決して大きな声で朗々と、といった声の出しかたはしなかった。いつでも冬の静寂にとけこんでいられるような、穏やかで低い調子を手離さなかった。

　そろそろ雪割草のひとつもと子供たちは毎朝心当りを掘りかえしていた。

　ある晴れた日。

　T.K.が居間の掃除をしていると玄関でノックの音が聞こえたようだった。小柄な少女が訪ねてきていてモイラ.Aの部屋を尋いた。T.K.が有んないして通るとノックをしようと腕を上げる前に扉が開き、T.K.にはかるく目礼しただけでモイラの視線は少女にむけられた。

「お入りなさい。」

　T.K.はお茶でもと思って台所へとっかえした。

「リターニア。」

　モイラはそう少女を呼んだ。

「待っていたのです。
　あなたが来ることはわかっていました。」

　モイラ.Aの客室の中は殺風景なほどに整っていてなにもない。ベッドと机とスチームががひとつあって、あとは窓ぎわに絵がかけてあるだけだった。それもT.K.たちがあらかじめ飾っておいたものだ。

　モイラはリターニアに椅子をすすめ、自分は疲れたようにベッドに腰をおろした。常に姿勢のよい、礼儀正しい彼女がである。見ている者があれば具合いでも悪いのではと思ってしまうほど、体が重そうな様子だった。

「わかっていたというのなら…！」

　しばらくの沈黙のあと押し殺したように少女が叫んだ。

「なぜ、あたくしを置いて行ったりしたの!!」

　少女、リターニアは、ひどく勝気そうでそして怒りのために震えていた。

　あざやかな色のドレスのひだの上で白い華奢な指がきつく組みあわされている。

「あなたは…」

　モイラは苦しげに口を開いた。顔があおい。

「あたくし、あなたと一緒に行きたいのよ。」

　少女が高飛車にそれをさえぎる。

「言ったでしょう。あたくしも "永遠" と "無限" というものをこの目で見てみたいの。あたくしにだって、その権利はある筈だわ。」

「………権利？」

　美しくもの静かだった婦人は、はじめてきつく眉を寄せた。すっ、と沈んでいた身体が伸び、かたく張りつめた驚くほどに優美な背筋が再び彼女をささえる。

　その口調は厳しかった。

「あなたさまに何の権利があると云うのです。」

「ふしぎびと、とかいうものになる権利よ!!」

　少女にしてもモイラ.Aの怒りの表情を見るのは初めてだったのだろう。彼女は今は気高く、おそろしく、神々しくさえ感じられるようだった。日頃の穏やかな微笑などどこにもなかった。彼女は固く目を閉ざし、また少女をみ、それから立って部屋のすみへ歩いた。

　いかにも身分の高そうな少女はヒステリックに体をふるわせていた。

「あなたは何かを誤解しているようです。」

　刃のような静寂さでモイラは云った。

「よろしいでしょう。さあ、よく御覧なさい。この２つのカバン。この身体そのものの他には、これだけが私の持つ全てのものです。あなたはあらゆるものを捨て、お父上も、お父上の庇護のもとでの豪奢で安全な暮らしも、むろん友人も恋人も捨てて、たったこれだけの荷物にご自分を託すことがおできになりますか。…それができるというのなら、私は、あなたを連れてゆきましょう。」

　少女は音たてて椅子から立ちあがった。立ちあがって、しかし、そこから動くことができなかった。色を失った握りこぶしが体の両脇で震動していた。

　モイラ.Aの持ち物が、あの最初の日に携えて来たショルダーとスーツケース。だけ、というのは本当だった。茶の盆を運んで来たまま、ただならぬ室内の気配に聞き耳をたてている、人のよいT.K.は知っていた。彼女は村のよろず屋でもめったに買いものをしなかったし、冬の間じゅう手紙も小包もうけとっていなかった。それに建てつけの収納家具も使わない。

　カバンが２個。

　上手につめこまれて見かけよりは多い容量とは云え、それが彼女の生活をささえるすべてのものだった。

「増えてゆくのは想い出ばかり。」

　いつか、にこやかに微笑みさえして不思議の旅人は歌っていなかったか？

　少女の腕があがった。まるで本体とは何の関係もない白い細い蛇のように。それは手近の花瓶をつかみとり…それさえがT.K.の両親の財産だった…次の一瞬、冬季は貴婦人の頭上で激しい音をたてていた。

「アスタテクルトンさん!?」

　T.K.はお茶がこぼれるのもかまわず扉を押しあけた。少女は鮮やかなドレスのすそをひるがえして庭に通じるドアへ駆けた。

　通路が開くその時、T.K.は違う世界をその向こうに見た気がする。

　厚い木の板が視界をさえぎり、後を追って飛び出し…

　そして雪原には誰の姿もなかった。

「……あ！　大丈夫すか!?」

　呆然として部屋に戻ったT.K.は女性の足元に散らばる破片を見てあわてた。モイラ.Aはうつむいて額の横に手をあてている。片方の肘は壁を支えて、そうしなければ立っていられないかのようだ。

　乱れかかる黒髪にうずもれるようにして、はじめT.K.は彼女が泣いているのかと思った。それほどに小さく弱々しいように見えたのだ。けれどそうっと手をのばして（恐る恐る）前髪をはらってみると、そうではなかった。T.K.はひどく生真面目な顔をして、額にあてがわれた細い指を外した。

　白い額に血が一条…

((　ああ、なみだ、だ　))

　T.K.はわけもなくそう感じた。何も云ってあげることができなかったので、もう一度、大丈夫ですかと尋ねた。馬鹿なことしか云えない自分がひどく哀しかった。

「…たいしたことはありません。」

　笑ったように思えたのはT.K.の錯覚だろうか。

「ご免なさい。花瓶を壊してしまいましたね。」

　そうではなく、本当に彼女は微笑しているのだった。

　透きとおった、こんなにも透明な笑顔をT.K.が見たのは後にも先にもただこの時だけだ。一度きりとの例外は妹が早くにはやり病で死んだとき、苦しんで、苦しんで、さいごのさいごにアリガトウと呟いたあの表情。

　ティサはあの時すでに暗闇のむこうに安らぎを見いだしていたのだ。

　では、旅人は。彼女の道程はこれからも長いだろうに。

「きつくはないですか。」

　T.K.にも解らない。云いたかったのは包帯のことか。

　モップでかけらを掃き寄せる間にもモイラ.Aは歌いはじめていた。初めはごく小さく、細く枝が震えるような声で。それから次第に大きく。

　ついに歌声は朗々と、彼女のものなら残らず持っているT.K.のどのレコードでも聞かないほどになった。彼女は窓を開け放ち、世界にむけて呼びかけていた。その立ち姿は凛として近寄りがたいようでもあり、同時に女王のように豊かで慈しみにあふれてもいる。

　が、どちらにせよ彼女が孤独な生物であることにかわりはなかった。

　並び立つことのできる者が存在しえぬ故に。

　孤高。

　…………………

　いつの間にか遠くの轟きが、答えるように貴女の声に和していた。

　雪解けが始まったのだ。


　　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊

　窓辺のつららの最後のひと滴（しずく）が地面に消え。

　野火が走り、緑が萌え。

　つぼみがひらき、鳥は巣をつくる。

　気のはやい花びらがその年の最初の収穫に姿をかえる頃。

　そうして高原は初夏を迎える。

「海が見たいのです。」

　ある日彼女がそう告げるのを、T.K.はそのずっと前から知っていたような気がした。

「連れて行って下さいますか。」

　冬の間に彼女の出した手紙は春のはじめに小包になって戻って来ていた。ちょっとしたおもちゃや、菓子、とりたてて必要とはしないけれど、あれば重宝なといった日用品。小間もの。それら本当にちょっとした使者たちは折をみてはさりげなく配られて、木箱の中の名簿にもすでにすっかりチェックがついてしまった。

　彼女は旅人なのだ。

　その朝のうちにT.K.は馬車を仕立て、宿屋に２度、泊まって、３日目の早朝に砂浜に寄せる波を見た。堤防の上の土の道に降りて、モイラはずいぶん長いことそこから動かなかった。

　岬も入り江も岩礁も島影も、なんにもない、ただ青一面の海。

　その彼方から風が吹く。風は言葉だ。彼女はじっと立って白雲の語る物語に耳をかたむけていた。

　やがて群青の世界を一匹の蝶が渡ってくる。

　その白い昆虫は風になびく漆黒のモイラの髪に捕えられて、モイラの手の平の中で風変りな型に折り畳まれた一通の手紙に変わった。

　モイラはそれを読み、そして再び風に流すと、もう山の端を越えて行く一対の羽を追うことはせず、目でT.K.をうながして道の背後の土手に腰をおろした。

　すこし海原が遠のく。