(1985.08.03.)

*文献番号・〇七一八九九七七〇五より要約

 ~ 大地世界における四界神話の古謡 ~


     ☆


 それゆえに昔語りを始めよう。

 そのかみ(上古)、《ミアマ・センサリアス》(初めより前の国)と呼ばれる世界があった。

 たいそう輝かしい素晴らしい場所で、そこには人や鬼や獣はおらず、神々と仙族と聖なる精霊ばかりが、この世とそのほかのすべての世に起こる、あらゆる事柄や物語や、学業や工芸について学んでいるのであった。

 《初めより前の国》は学ぶための世界であるので、われわれの大地でのように耕したり、狩ったり、ものを作ったり商ったりして働くということはしなかった。

 神々と若い神々である仙族とは、その暮らしに必要なすべてを風(*)のなかより自在に得るすべ(術)を心得ていたのである。

 また聖なる精霊たちは神々や仙族とはさかしま(逆)に、それまで保っていた風のように眼に映らない軽い姿を捨てて厚い肉の衣をまとい、その重さに耐えて自在に使いこなす術を学んでいたのである。

 神々と仙族とは人であった時の顔かたちを忘れて精霊のように姿を風に溶かすことを学び、聖なる精霊たちは人や鬼や獣のように固い器を使うことを学んでいたのであった。

 《初めより前の国》は時の流れの始まりのみなもと(源)にあり、すべての時の大河の母なる泉であるので、けして新たに創られることはなく、そして終わることも滅びることも、失われることもない。

 その世界はいまもどこかに存在しているのである。

 ただ、そこへとたど(辿)る道のありかは、《マライアヌ・ダ・イアドライム》(母なる大地の女神)らの死とともに、われわれダレムアト(大地の民)の叡智の目録からは、絶えて失われて久しい。



(*《ミ・エセル》(風): 原語である《ダィレムアース・マリカルロク》(大地世界上古語)では、無、または空洞、見えずして存在するもの、等の意の重複した単語である。)



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