「……成程。」

 保安局長は黙ってしばらく考えている。

 ソレル女史とエリーの熱弁。目の前に絶世の美女が揃っているというだけでも、並の男なら何でも言うことをきく気分になっているところだ。

「つまり、きみ達の主張を信じるなら最近おくら(迷宮)入りした難事件のほとんどは、きみ達と同じ特殊な能力を持った人間が引き起こしたもので、……その解決に無報酬で協力したい、と。」

 加えてその美女達には人並はずれた知能がくっついているのだから始末が悪い。

「こちらに要求するのは保安局秘密部員としての肩書と捜査権のみ、費用そのほか一切はソレルが負担する…か? 一体なにを考えているんだ。この条件では、そっちのメリットが無い。」

「ですから、捕まえた犯人は必ずしも引き渡さない、と」

「きみ達の云う "仲間の保護" か。甘いな。それだけが目的なら何もわたしの力は要らない筈だ。現に我々はそんな種類のパワー(力)の存在すら知らなかったのだから、勝手に行って、常人の目には映らない領域で自由に犯人を挙げてくればいい」

 その、パワー(力)の存在を "知らせる" こと自体が目的なのだとは、まさか門外漢の彼には知る由もない。

「何を考えている…ソレル?」

「…別に、なにも。」

 ソリ・ラーダ( "氷の女史" )とまで異名をとる彼女の、鉄壁のポーカー・フェイスである。

「そちらの損になる話でもないと思いますが」

「 ふむ。…」

 そしてまた局長は背もたれによりかかる。

「しばらく、考えさせて貰おう。実験報告にも一度きちんと目を通さねばなるまいし…

 しかしな、ソレル」

「はい?」

「この話、応じるとしても最低で捜査実費くらいはこちらで持たせて貰う。で、なければ。」

「…ひもつき、ですか。もちろん報告の義務も出てくるのでしょうね?」

 一瞬、従兄妹同士が睨みあう。

 折れたのは、ソレル女史のほうだった。

「ま、………いいでしょう。」

 もともとそういった用心深さはこの二人に共通のもの、いやむしろコルディ局長の方から若き日のソレル女史に、積極的に叩きこまれたものであったのだから。

 それを汐に、面会は終わった。


「あ。局長、」

 立ち去りしなに大人しくしていたケイがついと振り向いて口を開く。

「なんだね。前のように呼び捨てにしてくれて構わないんだよ、ケイ。」

 リスタルラーナでは最も一般的な茶色い瞳の、笑顔の愛くるしい少女だから、たいていの大人に彼女は好かれる。

 小首をかしげて、

「もう子供じゃありませんのよ、コルディ小父さま。…近いうちに医者にかかる予定って、おありじゃありません?」

「…今日の夕方にチェックを受けるつもりでいるが… それが、どうして?」

「うふ。…ついでに二~三日、入院される準備をしておかれた方がいいですよ。
 肝臓に中期のレシファ型浮腫ができてます。…手術が必要ですわ」

 ソレル女史が眉をひそめる。

「…コルディ…定期健診はどうしたんです。中期にはいるまで放っておくなんて」

「………忙しくてね。」

「お大事に。」

 最後にエリザヴェッタの極上の笑みを残して、三人の姿はドアの向うに消えた。

「……… "微細透視" ね… ケイもだとは!」

 どさりとソファに身を沈めてビジフォンのスイッチを入れる。

「 君か? 済まんが明日から三日間のスケジュールはすべてキャンセルしておいてくれたまえ。…そう。急用ができるらしくってね」

 …もはや《エスパッション》を疑うだけの気力は、彼には残っていないのだった。





「…じゃあ、あたし達を引きとって面倒を見てくれるのね」

「学校にも行かしてくれる?」

 子供達はサキをとり囲んで話を聞いていた。

「 学校、はね、通信制になるんだ。そら(宇宙)にある基地だから」

「その方がいいわ。今さら小さい子たちと一緒のクラスになるのも嫌だもの」

「おい…ちょっと待てよ」

「何?」

 不機嫌なのはラミルだ。

「わざわざそんな大金かけてオレら引きとって、で、どうしようってつもりだよ」

「別に。用心深いね」

 サキは笑った。

「なにかに利用しようって気はないし、信じられなきゃ無理に来なくてもいいよ。わたしらとしちゃ…人並みの教育、受けてもらって、エスパッション(超能力)の訓練して… そうだな、目的っていや、頭数をそろえたいから、って事くらいかな」

「頭数?」

「そ。なんにしろ、物事には人数が多い方が説得力があるからね。いずれ我々の存在を公表して世間に受け容れて貰うためには、ね。」

 それが最終目標なのである。

 子供達どうしでそれからモメにモメて、やがてレイが一喝しておさまった。

「あー畜生うるせえっ! 来たくなけりゃ来なくていいんだぜっ!」

「……………行く。」

 浮浪児の集団。

 もともとそういった所で、レイ(彼女)は育ったのだ。

「オーケー。話はついたじゃないか。で、どうするんだサキ?」

「…ん~~。ひとまず女史のセカンドハウスまで連れて行こう。お風呂が必要だよこの子たち★」

「お風呂! なつかしい言葉だわ!」

 女の子達がまっさきに歓声をあげる。

 ひとり行水嫌いのジースト人だけが鼻にしわを寄せていた。






https://www.youtube.com/watch?v=BPqEHdS6CaM
Twelve Girls Band on TV in Japan


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