「エスパッション、始動」。 (2)
2017年1月11日 リステラス星圏史略 (創作) コメント (2)
https://www.youtube.com/watch?v=rCmUfTTIQAI
Celtic Woman - Destiny (2016)
欄外に、「…気がついたら、しっかり、 "エーリアン st." パロになっている…」の書き込みありw
Celtic Woman - Destiny (2016)
リスタルラーナ(星間連盟)のリスタルラーナ(首都惑星)。というと大抵の地球人は一瞬パニックを起こすが、驚くには当たらない。ラ行に聞こえる音がこの世界の言語には四種類もあるのである。
ついでに言うと首都惑星上の中心都市の名前も、リ(小)スタルラーナ、なのだ。
レイのあやつる六人乗りの小型艇でおり(大圏降下)て、シティポートに繋ぎ、まだ約束まではしばらく時間もある事だし、久し振りに揃って食事でもしましょうかと、街に出た。
オピニオン・リーダー(言いだしっぺ)たるサキと家政の長であるエリーが揃って地球人、ついでに出資者のソレル女史が大の地球びいきとくれば、リスタルラーナにありながらこのメンバーの食生活はどっぷり地球風、という事になる。
サキが案内して個室をとったのも、無論、ついこのごろダウンタウンに開業したばかりの地球料理の店だった。
「これなあに?」
見慣れない白い四角い柔らかいものを試してみながらケイが訊く。
組成が均一で、珍しくリスタルラーナの食物に近いと思ったのだ。
「ああ、ソーイ・ケーク(豆の加工品)だよ。相当古くからある種類らしくってね。上古の文献にも時々出てくる」
一口に地球、といっても様々な文化があるうちで、この店の料理はわりにサキの故郷に近い地方のものらしい。
細長い二本の棒が出されて来て、それで育ったサキと訓練済みのエリーは器用に棒をあやつって食べている。
もちろん他の人間にはそんな芸当は不可能だ。リスタルラーナ風にスプーンと縦長のナイフを使った。
マジックミラーの窓の外をショッピングにそぞろ歩く人々が流れて行く。
「………あれ?」
サキは、あるものに気づいた。
「おっ!」
レイが低くヒューっと口笛を鳴らす。
「行儀が悪くてよ、レイ。…どうしたの」
たしなめるエリーや、ケイや、ソレル女史に示された先には。
子供が数人、組んで万引きをしていた。
「…あら♪ 」
ケイが何故か、思わず喜んでしまったのも無理はない。
その連中は… ESPを、盗みに使っていたのだ。
見まもるうちにも向かいの店の前に美々しく積まれたアンシスア(高級嗜好品)の山からパックひとつ唐突に消え失せる。
芯にあたる部分から巧妙に選んで抜くから、ワゴンごと派手に崩れ落ちるなどという事もなく、同じ超能力者でもなければ誰も、泥棒が居たとすら気づきはしないのだ。
見るからに薄汚れたかんじの子供達。
このコンピュートピアにあってそんな事はあり得ないのだが…
にも関わらずサキとレイは直感した。
この子たち、親も家もない、浮浪児だ。
たっ…。
サキが席を立つ。
「追うよ、レイ。こっちはエリーとケイがいりゃ十分だろ」
「そうこなくっちゃ」
じゃ、失礼、とばかりに二人はさっさと駆け出して行く。
ソレル女史が首を傾げて呆れて言った。
「あのこ(娘)たち… 保安局長とのアポイントを何と思ってるんでしょうね」
店を出ながらエリザヴェッタが笑う。
「無理ですわ、女史。あの二人、特にサキにとっては "仲間" を見つけ出すのほど大切な事はないんですもの」
時間通りに保安局本部に着くと、待つほどもなく直ぐに局長室へと通された。
上背のある落ち着いた服の男性が立って彼女達を出迎える。
連盟政府のかなめ(要)のひとり、保安局長マリア,コルディである。
「やあソリ・ソレル(ソレル女史)。久し振りだな。で、どっちの顔としてきみを応待すればいいのかな?」
「近頃の犯罪天国を憂える一科学者として、いとこ(従兄)である保安局長氏に無理をお願いしに来ました、と言えば?」
「犯罪天国とは耳に痛い言葉だが…相変わらず、きみにプロポーズしている男としての立場は黙殺されているんだな」
言いながら素速く室内監視システムを切る。
それを見定めて、エスパッション号以外では滅多に表情を見せない女史が微笑した。
「五歳の時から一緒に育ったのに?」
「~~~だがそっちの肩書きの方が、おねだりをしようという時には分がいいぞ」
「お兄さま。 私情で動く人ですか、あなたが」
すぅっと無表情に戻って眉を吊り上げる。
そう、この二人の公私の区別のつけ方と云ったらあまりにも見事で、これだけ親密でどちらもトップクラスの連盟の要人であるのにも関わらず、血縁関係にある事を知る者は殆どいないと言っていい。
「やれやれ。実際、ソリ・ラーダ( "氷の女史" )だよきみは」
あきらめたように肩をすくめて、局長は客人一行を応接用のスペースに誘導した。
「そちらの美しいお嬢さん方は?」
「わたくしの助手で、エレンヌ,ケイトと地球人のエリザヴェッタ・アリス・ドン・レニエータ=グラス。」
エリーは本名で呼ばれるのは好きではない。普段はエリー・グラス、で通しているのだが。
「思い出した。エレンヌ大使夫妻の令嬢と、そちらは確か旧レニエート公国の第一公女殿下だったと思うが、」
さすがに保安局長の情報量もダテではない。
「…事情あって公位継承権は放棄いたしました。今は一留学生として女史の御指導を頂いております」
鮮やかに礼儀正しく応える。
「ケイは英才教育のために三歳からソレルがひきとって育てているとか。五年ほど前に一度会ったことがあるね」
「はい。その節はお世話になりました」
ピョコリ、と頭を下げる。
「…それで……?」
局長は三人の希望通りにティレイカ(銀紫茶)の組成をインプットして待った。
すっ。
ソレル女史ガメモリーパック(記憶回路)の束を取り出し、一番上のひとつを更に選び出してコルディ局長に手渡す。
「こちらの山の抜粋です。未だ不完全な段階ですが、わたくしのレポートが入っています」
「大した量だ」
彼が端末を呼び出して数式や実験報告に目を通している間、しばらくは皆が静かにお茶を口にする、そのかすかな音だけが部屋に浮いていた。
「ふむ…」
常人の二倍くらいの速さでディスプレイ(画面)の文字に目を通し終えてしまうと、うなり声。
「なかなかおもしろ(興味深)そうな内容だが… よくは解らんな。きみの言うこの "パワー" (力)、《エスパッション》とかは具体的にどういうものなんだ?
精神力…?」
「それはあたくしから」
にっこり笑ってエリーが身を乗り出した。
三人で打ち合わせをするまでもなく手順はおのずと決まっている。
パタン!
保安局長のティレイカの容器、まだ三分の二ほど残っていたやつが突然かなりの勢いで斃れた。
もちろん飲み口にはストッパーが付いているからそれでこぼれ出すという事はないのだが。
ころころと転がる。テーブルのふちから落ちかかる。
と、思うと円筒は宙空にふわっと舞い上がっていた。
「 ……… ほう。」
勝手にダンスを始めた容器とエリザヴェッタを等分に見つめて局長はうなる。
(( いやしかし新手の反重力システムだということも ))
まず疑ってみるのが職分である。
「いくらソレル女史でもそんなビッグ・サイエンス(エネルギーのかかる研究)、個人の設備だけでは出来ませんわ、この御時世に」
リスタルラーナ世界の深刻なエネルギー不足は、地球圏との交易でいくらか好転したとは云えまだまだ楽観視できるものではないのだ。
こうるさい動力源供給統制システムは一般の反感を買うところでもあり、連盟政府の頭痛の種となっている。
(( …特A級スペシャリスト(科学者)…特権階級ともいえる "ソレル女史" の力をもってしても、駄目かね))
口には出さず、局長はあらためて相手を注視しなおして問うた。
(( 無理です ))
きっぱりした応答が、自分の思考と同じレベルの脳の内部でひびく。
奇妙な感覚だ。
「 テレパシー(心話)か…」
読んだばかりの論文の単語を口にして局長は苦笑した。
「自由に相手の心が読める、という訳かね。そうだとしたら随分便利だろうが」
「いいえ! 失礼いたしました。必要がない限り普段はこんな真似は… プライヴァシーの侵害になりますもの。エチケット違反ですわ」
「つまりは盗聴器と同じ、と?」
会話のあいだにもティレイカは容器から噴き出して銀紫の流れを描き、あたかも線細工の立体広告のように部屋中を奔りまわっている。
くるくると彼の体を龍巻き状にとりまいて駆けあがったあと、思うさま暴れまわっていた液体は一滴も残さず、すぅっともとの筒のなかへと納まって行った。
"魔法のようだ" と、もし地球人が見れば畏怖をもって表現しただろう。
しかしリスタルラーナにはそういった超自然的な概念がそもそも存在していない。
予備知識がないこと…それはつまり、余分な先入観を持たない、という事でもある。
そこが、狙い目。
「そうです。能力の是非はおくとして、機械と同じに使い手次第で善悪の決まるものなのですわ」
きっぱり。言いきってみるのは一つの賭けだ。
「 ふむ。…」
一旦は勝手に手のなかへ納まってきた容器が、しゅっという空気音とともにエリザヴェッタの側へ転移する。
保安局長としてもこれはどうやら本当にその ”エスパッション" (超能力)なるものが存在しているらしいと、信じてみないわけにはいかなくなってしまった。
「 …いいだろう。ソレル、きみの話を聞こうじゃないか」
腹をくくれば理解は速い。
「犯罪天国、なぞと罵られる原因になった近頃の難事件続き…きみらのこの能力と無関係ではないと踏んだが… どうだね?」
ニッ…。
瞳を伏せて、満足げに、ソレル女史は薄く唇をつり上げた。
欄外に、「…気がついたら、しっかり、 "エーリアン st." パロになっている…」の書き込みありw
コメント
保安局長(のちの連盟総裁) ⇒ たぶんニョゼさん。(^^;)
この話には出てこないけど、 ヘレナ・ストゥール ⇒ レインリリーさん…?
…暖房かけてても何だか寒い(--;)ので、洗濯して入浴して、寝ますぅ…★