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BOND - live from the Royal Albert Hall.avi



  "エスパッション" ・シリーズ vol.1.


 ほし(惑星)の夜明け 

 … A Dawn of A Planet …

          遠野真谷人



 …惑星リネアクライン。

 リスタルラーナ(星間連盟)世界 の大国同士を結ぶ における主要航路からは大分はずれた、辺境のほし(惑星)である。

 生活品のほぼ完全な自給が可能なためにかえって他恒星系との交易が遅れ、これといった特産物とてなく、中央のニュースからも遠い…

 そんな、おおどかで、沈滞した社会。

 うらさびて老朽化の目立つようなスペースポート(宙港)に、その未明、少女がひとり静かに降り立った。



 首都は、霧である。

 十数年来死んだままの店舗用ゴミ処理器の、出すとシュートの裏側から幾つもの生ゴミ袋を引きずり出しながら、青年は、細かな水滴の冷たさを気にするというのでもなく、見るとはなしにその霧の冷たさを肌で受けとめてちた。

 戸別の店舗用ゴミ処理器はこの十数年来というもの動いたことがない。だから、毎朝一番に数丁先の集積場…処理場まで直結の大型コンプレッサがある…へ、生ゴミを両腕にぶらさげて数往復するのは、長年の彼の日課だったのだ。

 黙々と青年は歩いていく。

 林立する高層建築物の集合体は、時代の新しいものになるにつれ、いっそうその超絶的な高層化が激しくなるものだ。

 その足下には、建造年を逆上るごとに背が低く安定した形へと変わってゆく、旧市街を埋もれさせて。

 この都市もどうやら歴史の古いリスタルラーナ系の文明圏に共通な、雑多で無計画な発展性を示してきたようだった。

 最初の入植者グループがもう二~三千年もの昔に造った小さなコロニーの名残を核として、いびつな同心円状に、新しいもの、新しいもの、と建造物をかさねていく。

 都市の交通機関もまた円型を常として発達し…

 やがて物理的な限界に達したビル群が新たなコア(核)を見つけてそちらへ移り流れるまで、取り壊されることのない旧い中心市街は、少しずつ、スラムと化していくのである。

 七階より高い建物とては見当たらないこのあたりで、青年も、青年の母や父も、生まれたのだった。



 少女はスタスタと、その年頃の娘としてはかなり大股の速足に宙港の構内を横切って行った。

 建物の内部にさえ何故からか白い霧のひとかけふたかけが紛れこんでいるこの朝まだき、長い廊下の自動走路は未だ目覚めていない。

 彼女と同じ船便で着いた数少ない旅行者たちは皆、宙港のサービスの始動を待って税関前の客溜まりに腰を据えている筈である。

 走路が動けば三分で着くものを、わざわざ十五分かけて歩こうという物好きは、普通、いない。

 始業の準備をする宙港グランド・ホスト(地上要員)の奇異の視線をまるで無視して、少女はその足でやはり走路の眠ったままの市街区へと、平然と歩み出して行ってしまった。



( …ふう。結構、歩いたなー。)

 彼女が足を停めたのは自転のゆるやかなこの星で、深夜というに近かった早暁からようやく高いビル群の頂きが朝陽の金色に染まろうかというほど、時のたった後である。

 この刻限、中流以上の階級が住まう新市街では個室ごとの明かりすらないが、スラム化の始まっているこの辺りは朝の早い労務者やあるいは夜業明けの者などで、思うより人出の多いものである。

( うう。お腹が空いたァ。… )

 もとより別段急ぎの用があって歩き通したわけでも何でもない。

 ただ単に幾日もの船旅で溜まってしまった運動不足を解消したかっただけの事なのだ。

 労働者相手の一軒の場末の朝食屋が開いているのを見つけて、少女はためらいもなく入って行った。



( …騒がしいな。)

 いい加減、ガタのきた機械のかわりに手で大量の皿を洗いながら青年は顔を上げた。

 さして入っているわけでもない早朝の安い定食めあての客たちが、妙に、一斉に、ざわついているのだ。

 その原因に気づいた青年は一瞬ポカンと口を開けた。

 ……少女である。

 象牙色のざっくりしたジャケット、淡灰色の、体にぴったりとついた細身のパンツ・スーツ。

 およそ色気には縁遠い、あっさりしたなり(服装)の、けれど仕立てと素材の良さが、その少女の階級…金のある…を示していた。

 こんな貧しい食べ物屋にはどう考えても不釣り合いな人種である。

 が、まあ、それだけなら、迷い児になった、とか人をでも探しに来ているとか、説明をつけられない事もない。

 食事客たちを落ちつかなくさせているのは、少女が、あまりにも物慣れた風で自然に振る舞っていたからだったのだ。

 育ちの良さげな娘がいかにも自分はここに居てしかるべき人間だ、という顔をしていると…

 常の、馴染みの客である筈のくたびれた作業衣の男たちの方が、どこか場違いな所にでも踏み込んでしまったのではないかと、つい、あたりを見まわしてみたくなってしまうのである。

 しかし青年を呆けさせたのはそれだけではなかった。

 美しかったのだ。

 いわゆる、その年頃の少女らしい華やかさ愛らしさというのではない。

 一本芯の通った、内奥からにじみ出る知性の高さ。やさし(理解深)さ。

  "気品" のようなもの…。

 将来の見通しの薄い下街には若者、殊に若く美しい娘たちの姿は少ない。

(…なんて… )

 そうして、たっぷり二分ほども、青年は少女を見つめていた。



 一隅に席を占めて少女は注文を出す。

「ファッショミルとジョイナーキィ。ティレイカ(お茶)、2.5mg濃い目にして。」

 卓上のメニュー・コンピューター(注文器)に音声入力して清算スリットにカードを入れようとする。

 と、作動しない。

「 ? 」

 コンコン。

 お~い、という感じの、妙に子供めいた仕草でディスプレイを弾く。

「 、あ!」

 ようやく正気にかえって、慌てた声で奥から人が出てきた。青年は洗い場からとびだした。

 まだ泡をふきのこした手でメモを取る。

「すいません、ここ、注文器こわれてんですよ。ええと…現金払いになっちまうんだけど…」

 こんなお嬢さんが今どき邪魔になる小額貨幣なんぞを持ち歩いているだろうか?

「 現金ね。あるよ」

 スタイル(服装)にあったちょっと少年ぽい笑いかたで動じもせず注文をくり返すと、公けの通貨ではない一番はした(端下)のテレス銭まで、きっちりとそろえて少女は払った。

 よくも上層新市街の人間が、持っていたものだ。





(ティルニー。
  A boy meets a gir. …一種の青春小説として?)



>卓上のメニュー・コンピューター(注文器)に音声入力して清算スリットにカードを入れようとする。

 …「当時は」「SFな」技術でした。

 ハイ。(^-^;)…☆

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