その未明、惑星リヤネスカの第1宇宙空港にまだ若い女が1人降り立った。
宇宙空港…ひとたび衛星軌道上にてその乗ってきた恒星間大型船に別れを告げた後、小型降下艇の外殻の冷却されるのを待って第1歩をフイ出すべき場所である。
惑星大気に害をおよぼさずに、降下・着地を行いうる大型恒星船は、まだ、ない。
リヤネスカ上の第1宙港といえば官・商の発達した首都・リヤネスカにほど近く隣接し、ために工業地区、農業地帯に比較すればはるかに荷物取り扱い量の少ない、小規模で旅客を主体とした港であった。
その、宙港の、降下艇のタラップから管制塔付随のビルの1端へ、更に各種の手続き所を経てロビー、正面玄関へと続く、1部可変式のだだっ長い廊下。
そこへ今朝いちばんの降下客として彼女は現れ、ゆったりと歩きはじめた。
まだ若い女、と、いうより正確にはまだ少女と呼んでもさしつかえのない時期であろう。
"娘" とした方がむしろ似つかわしく思える年代である。
だが、まだ明けきらない、夜勤明けの倦怠感と早朝番の眠気の漂う宙港のゲートへと1人歩み出た姿には、少女という言葉が連想させる年齢相応の未熟さ、危うさ、等といったものが、まったくと言っていいほどに既にみられなくなってしまっているのだった。
彼女は落ち着いて、虚勢を張るでもなく静かに堂々としていた。
ゆったりとしたライオン・ウォーキング(歩き方)は、あきらかに己れの実力に対して小揺るぎすらすることのない自信を抱いている者の、それなのである。
自負心の源が外見の美しさ、などという浅はかなものではないことは明らかだった。
といって…
彼女が美しくない、と解釈するのは誤りである。
それは美少女という一般的な概念ともまた大きくはずれたものではあったが。
朝まだきの廊下の人気の少ない中を彼女は歩いてくる。
その無雑作だがムダのない一挙一動は、真に見るべき眼をもつ者をならうならせるに足るものだった。
ゆったりしたリズムを保って右、左、右…
年頃の少女にしてはかなりの相当な大股、速歩である独特のウォーキング。
どう見ても高度に訓練された者でなければでき得ない完璧なスタイルを持つように思えながら、その実それはプロのモデルのものでも、運動選手、舞踊家、格闘技やその他の武術をたしなんでいる者の動きでも、ない。
あまりにも自然流に身につきすぎて、そこからおさと(職種)の知られるような生はんかに雑作のある挙止ではないのである。
しいてと、ならば、それらのどれをも深く修めているような、とでも言うか。
まったく弛むことすらない歩きっぷりである。
見事と誉める以外ない。
それだけの歩行法を修めながらなお、本人まるきりの無自覚で、あっさりと少年のように空間をかきわけて行くのも、また爽快であった。
空調の油断でか宙港構内にはほのかに白い朝霧がいくばくかまぎれこんでいる。
複数の自動検疫システムをくぐり抜けて、この時間でも星間航路行きの待ち合わせロビーにはいくらでも人がざわついていた。
明るめの灰色のストレートのパンツにアイボリー・ホワイトのちょっと形の変わったジャケット。あっさりと地味な、かなりボーイッシュでもある服装は決して目立つというわけでもない。
人混みの中にまぎれこんだ彼女が巧く混雑を泳ぎ抜けながら変わらず淡々と歩き続けて行くと、それでも幾人かは確実にふっと振り向いて見るのだった。
まるで… 光を発しながら妖精がそこを通っていったのだと、いうかのように。
珍しい薄灰色をした長い髪をしている。
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