「星の夜明け」 (没原稿・ B-1.)
2017年1月6日 リステラス星圏史略 (創作) コメント (2)
https://www.youtube.com/watch?v=3b4nMXKSahg
Star Trek Mega Suite 7: To Boldly Go
Star Trek Mega Suite 7: To Boldly Go
その未明、惑星の宙港にまだ若い女が1人、降り立った。
とりたてて特徴もない、どちらかといえばむしろ貧弱な星である。
首都惑星の存在する宙域からは遠く離れ、かと云って辺境開拓惑星と称される程の若さとバイタリティもとうになく、主要な星同士を結ぶ賑やかな定期航路の大型船の行き来からも、あと少しというところで外れてしまっている。
そんな中堅どころの下ぐらいの惑星に、その女は着いたのだった。
女…と、1口に云っても、まだかなり若い。
少女、とか娘、と呼称した方がむしろ似つかわしく思えるくらいの年頃なのではないだろうか。
だが、まだ明けきらない宙港のゲートへと、中型の古ぼけた定期貨客船から歩み出す姿には、少女という言葉の連想させる年相応の未熟さ、危うさ、等といったものが殆どといっていいほど感じとれないのだった。
彼女は落ちついて、虚勢を張るでもなく静かに堂々としていた。
ゆったりとした歩き方はあきらかに己れの実力に対して小揺るぎすらすることのない自信を抱いているもののそれである。それは、能力に合わせて早い時期から専門的な方向づけに沿った職業教育をほどこされるこの世界においては、それほどに珍らかな事でもないのかもしれない。だがそれにしても、ごく年若い彼女の無雑作だがムダのない一挙一動は、真に見るべき眼を持つ者をなら、うならせるに足るものだった、と言っておくべきだろう…
朝まだ来の宙港構内にはかすかに白い霧が残って漂っていた。
この時間でも星間航路のロビーにはいくらでも人がいるものである。
人混みの中に紛れこんだ後も彼女が変わることなく淡々と歩き続けて行くと、彼女の容姿が決して目立つ、というものではなかったが、通り過ぎられたその後には必ずといっていいほど、いくつかの振り返る視線が見受けられるのだった。
まるで淡い光を発して妖精がそこを歩いて行ったのだというように。
…確かに彼女の長い髪の薄灰色はこの世界では見られないもので、(それは彼女の故郷の地に還ったとしても何ら変わる条件ではなかったのだが、)見る者の目に奇異の感を与えるのはむしろ当然と云えたのかも知れない。
しかしもしここで彼女に振り返った者を誰彼となくつかまえて尋ねてみるとするなら、むしろ問われて初めてその髪の色の不思議さに思い至る人間の方が多いのではないだろうか。
それほどに、灰色、という色彩は彼女の頭部を飾るのにこの上もなくふさわしく似合っていて、それがカツラであるにせよ地毛にせよ、他の色の彼女を容易には想像し難い程であった。
彼女自身はその長いふわりとした髪をうるさがって、後頭部高くで1つにあっさりと結わえつけてしまっている。
なにかが妙に思えるのは、淡い灰色の1本1本がとても細くて半透明に透けるように見える、前髪ともつかないあたりのセミ・ロング(はんぱな長さ)の毛が、薄く1面に彼女の顔の左半分を覆って肩のあたりまで流れて、その瞳を半ば以上かげに隠れたぼんやりとした存在にしてしまっていることだった。
彼女はスタスタと、年頃の少女としてはかなり大股の速足に、時折りチラと目線を上げて天井のディスプレイ(案内板)を確認するだけで、自信を持って歩いて行く。左手に中型の銀のスーツケースがひとつ。ショルダー?
そのあっさりと地味な、かなりボーイッシュな服装ともあいまってだが、結構ゆたかで形の整った胸のラインにも関わらず、彼女は、性別を殆ど感じさせられない存在だった。
化粧っ気など薬にもしたくなげな剽悍な表情。と同じく、メンドクサイから置いて来ましたといった感じで、云わゆるセックス・アピールというものが見事に欠落しているのである。
だから、すれ違った彼女を振り返って、その後しばらく見惚れて立ち止ったりする人影の多くはむしろ、彼女自身と同年代の若い愛らしい娘たちであった。
男性は大抵が、飾り気のない清潔な顔の造作にひととき好意的な目を向けただけで、歩み去って行ってしまうのだ。
ひきかえに、少女たちは…この夢見がちで優しい、鋭敏な感受性の持ち主たちは…彼女の秘めている奥深い人間的な魅力を、誰も1目で適確に見抜いてしまうのだ。
無論それと同時に、外見的な性質も、異性の好奇心よりもむしろ同性の純粋な憧憬を誘うにふさわしかった事は否定ができないが。
スラリとして無駄のない体躯をしていた。
さきほども書いた様に彼女の体が決して女性らしいラインを備えていないというわけではない。
よく使い込まれ、鍛えられた機能的なフォルムは、余分な肉の1片をもこそげ落とした、むしろ人も羨む完璧なプロポーションとなっている。
ゴツゴツと不必要に筋肉ばるのではない。
ほっそりとなめらかな曲線の内に、どんな用途にも耐え得る最高の強靱さと瞬発性が秘められているのである。
その不屈さは彼女の故郷である星の、今はもう殆ど絶滅してしまった、 "ヒョウ" という名の美しい肉食動物に、相似していないこともなかった。こう書くと彼女がひどく物騒な存在であるように聞こえてしまうのかも知れない。少女達の目をひきつけながら人混みの中を真っ直ぐと歩かせておくにはあまりにも危険な存在であると。
…確かにある意味においては彼女はあきらかに危険な人物だった。
水面の上を渡るかのような歩きぶりからは、誰も彼女が10cm以上に近いハイ・ヒールの長靴を軽やかにはきこなしてしまっているのだとは気づかない。
そうでなくともじゅうぶんに背の高い少女であるようだった。
いうならば彼女は、その場に居合わせた全ての娘たちとは、ありとある意味で対極に位置しているのだった。
少女でありながら決して女ではない。
柔らかな外見の代わりに、何事をも自由にこなせる、精悍で生命力にあふれた実のある肉体。
その表情の中心をなしている、髪と同じ薄色の瞳も、追っているのは漠然とした夢や憧れなどではない。
彼女が真っ直ぐに見据えているものは、実現の可能な確とした理想。
彼女は少女の外見を持ちながら、同時に、いつまでも大人の男にはなり切ってしまう事のない、永遠の少年の魂をも兼ね備えているのかのようだった。
彼女の歩みは単に粗暴なのでもない。
中世的とかニュー・ハーフ風であるというのでもない。
性を超越した、純粋に1個の "人間" としての、自然で静かなあたりまえの自己主張だった。
あるいは彼女は究極的には男女の性別のわずかな相異など、たいした意味を持つものではないのだと、その齢にして既に本能的に知ってしまっていたのかも知れない…
数人の、めいめいがそれなりに魅力的で実力もある少女達の熱い視線を知ってか知らぬか。
彼女は拾いロビーを突っ切ってカウンターにまでたどり着くと、審査と申請と入国手続きとを済ませて、ごく何気ない顔をして惑星の朝の中へと踏み出して行った。
すぐと少し古ぼけた街なみの内部へ、溶け込んで消えてしまう。
この星へ訪れるのは初めてではないのか、それとも船内であらかじめ地理を頭に叩き込んで来たのか。…
無雑作で自身に満ちた彼女の名前をサキという。
正しくはサキ・ラン。
更に言及するならば故郷での登録名称はサキコ・ラン=アークタス。
その名の形式が示す通りにテラザニア(地球系開発惑星連邦)の出身の人間だった。
齢はまだもう少しで17にならない。
「…宿を探すには早過ぎる時間だな。…」
軽く呟くように1人言ちて、サキは下町へ、裏通りへと、いまだ動き始めない自走路の上を、長い距離を区にするでもなく歩き続けていく。
何故、けして貧しい身なりではない年頃の娘が、好んで場末の町並を求めて行かなければならないというのか。
最も金のかかる特急の星間定期船を選んでこの星へやって来た事からも、理由が「安宿探し」という尋常一様のものでない事は明白だった。
そもそも一介の地球人の少女がなんの目的で今頃、このリスタルラーノ系星間連盟の一惑星上へ現れたのだろう。
各個の能力に応じて出来得る限りの早期就業、こそを社会の通念としているリスタルラーナの人間ならばいざ知らず、教育年限の長い地球の人間なら未だ彼女は学齢を終えてはいないのではないだろうか?
留学生、という存在が何の変哲もない地方惑星の上でも一般化されるほどには、未だ2文明圏の交流は深く浸透しあってはいない。
「 …あ! おっと nice place。」
まずは腹ごしらえとばかりに、早々と開けている場末の朝食屋へと、彼女は吸いこまれて行った。
だがしかし1見まるで呑気に過ぎる程に思えるサキ、実はある重大な目的を帯びて1つの物事を追いかけている最中なのである。
それには、泣く子も黙る裏面の連盟警察機構・保安局特務部…の力さえも関連して来ている事なのであるが、いま(この話)はそこにまで言及しているヒマがない。
とりあえずは表面的な彼女の動きをだけを追って行くとしよう。
……………。
コメント
おそらく栗本薫の「まかすこ」(魔界水滸伝)読んでて、ヒロイン?の延々たる描写の長さに、対抗したくなった。とか、そういう時の文章だと思います…www
100☆