逃げて逃げて…

 その、派手なペイントと外大気圏船であるという理由からあまりにも目立ちすぎる MISS-SHOT 号は、めまぐるしい移動また逃亡のさなかに地上の密輸人…ヤニさんの同業者たち…の手にゆだねられて行った。

 これまた地球では珍しすぎるクォクと共に。

 逃げて逃げて…

 だから俺たちは一般の乗り合い空中車や無断レンタ(拝借)・カーを使う以外、殆どかち(徒歩)の旅になっちまったって事なんだ、一時的に。

 船と一緒に運ばれて行ければそれこそ楽なんだろうけど、あいにくと、人は扱わない。

 ましてや「おかみにたてつくやつら」(反皇勢力)には力を貸しちゃいけない、てのがその皇国軍の暗黙のうちに闇を跳びまわる連中の不文律だそうな。

 姫は正義のためにはどうのこうのとひとしきり憤っていたけれど…

  "本土" における皇国軍の威力が予想以上にそこまで… "無法者" であるところの彼らでさえ、力の掟には従わねばならないほどの…強力なものであるならば、ヤニさんの友人たちに身の危険を冒してくれとまで頼むわけにもいかない。

 逃げて逃げて…

 んで。

 ここは花のお江戸は東京、でかつてあったところの、地下都市の内部なのだ。

 時代錯誤の話で申し訳ないが、1度でも某国鉄Y線東京駅、で電車を待ち合わせた覚えのある人なら判ってくれるだろうと思う…

 あの、地下4階なぞという深層部の、昏さ。

 うっうっうっ。

 《ナルニア…》で地底世界におりて行く話を読んじまった時にも1晩眠れなかったもんだけど、怖いんですよー、本当に、 "空" のない世界、天井が重くのしかかってくる世界ってぇのは…

 …う~~~。苦手だ。

 人間の住む世界じゃないっ



 皇国軍は、しつこかった。

 こちとらアルキング(walking)なんてカーチェイスにもなりゃしない。

 MISS-SHOT やクォクと別れた段階で追手もまけたようだと思いきや、あちらさんも本場だけあってスターエア(方面軍)ほどバカじゃない。

 すぐにも追跡陣を市中パトロール側に切り換えてくれちゃって、ここにあの楠木女史がいりゃあ、

「しつこいおっさんはモテないよっ!」

 くらい、云ってくれちゃいそうだ。

 どうしよう。

 どうしたら。

 …なんて、俺ない知恵しぼる必要もないんだけどね。

 ともあれ密輸商・故買人やらそのお仲間の、もっといかがわしいプロたちが巣喰うらしい裏通りの一角をくぐり抜け、しっかり軍令部の波調にあわせたラジオ小脇に相手方の動行ききながらも、好お得意の "情報集め" さえする暇のなかった未知の市街地、を、俺たちはさ迷い始めた。

 上を見ればはるか彼方に天井。

 鈍く、光る、金属。

 そこまでは町の灯りも届かない。地底の、絶対的暗黒が、不自然な人間のテリトリー(領域)を犯し、その存在を否定しようと試みているかのような、薄闇…

 そして町は気だるい午後だった。



「 割合に… 風俗が乱れている時代のようですわね。」

「そ? 俺たちの時代だってこんなもんじゃん。」

「O市は田舎だもん。」

「お、腹減らないか、杉谷」

「そーいやァ、ゆかり、サンドイッチ作ってたろ、どうした?」

「潰れましたわ、尋人さん。」

「ぐげ。」

「あすこにメシ屋あるぜー」

「…よくこの非常時に食欲湧かせられんなおまえは★」

「へらねぇの磯原?! 朝も喰ってないんだぜ?!」

「…また、胃痛? 薬あげましょうか清クン。」

「平気だけど…」

 俺は単に環境の激変とか周囲の神経のズ太さについて行けんだけなの★

「でも、本当に、2食抜きってのは体に良くないと思うわお兄ちゃん。赤ちゃんのミルクと、バヌマさんの包帯のこともあるし…」

「金は、通用するのかヤニ?」

「…一応は、ねェ。同じ通貨ですサ。カードにしなかったのは正解だし、貨幣のナンバー、いちいち記録しとくスターエア税関でもないでしょうし、」

「この状態で、全員が人の中に長時間居座る、というのは危険すぎますわね。あたくし、買ってまいります。」

 磯原さんついていらしての声に俺は赤ちゃんユミちゃんに返して、へーへー荷物持ちでごぜえますだよマダム(奥様)。

「どう思います?」

 百貨自販店みたいな所でメニューを選びながら姫が呟いた。

 へ?

「…10日、経ちましたわ。正行さんのまの字も把めないままで…」

「 姫。」

 一瞬、つきつめて見えた表情はすぐに和んだ。

 人当たりのいい笑顔。

「ごめんなさい。これだけあれば十分だと思いますわ。予想より安く済みましたわね。」

 …少し、痩せたね…

「そっちも持つよ、姫。」

「御存知でしょ? これでも腕力はあるほうですのよ。」

 人造土壌の敷いてある、公園の片隅で食事。








>某国鉄Y線東京駅

…「国鉄」…!!

(ちなみにY線は「ヤマノテ」線じゃなくて、うちらヨコハマ買い出し奇行…もとい、横浜南部辺境(通称チベット地区)住民御用達の、「ヨコスカ」線ホームの話です…w)


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