（１０）。

　語り伝えられた予言が正しいものだとすれば、素直に解釈すれば "先祖" と "受け容れられた者" とは別の存在である筈なのだ。

　カムちゃんに出来るのは透視とテレパシー、精神操作。

　その能力は相当なものだけれども、伝承の "岩塊を動かす" というのが抽象的な言いまわしではないとすれば、その場合にはまったく役に立たない。畑違いのものなのだ…

　そして俺…

　過去から来て宇宙に現われ、地表の、日本へ、 "還って来た" …が、

　ここに居る。

　俺は夢うつつの状態にいながら不思議にはっきりと意識して、部屋のなかにある色々なものを、右へやったり左へやったり、空中高く浮かしてみたりしていた。

　自分の指を軽く曲げ伸ばしするような、ピアニストが演奏の前によくやるような、感覚で…。

　これは…

　現実だ。

　目を閉じて横になったまま俺は俺の動かす椅子が床の上１０センチの所でワルツを踊るさまを視ていた。

　小さい頃は自由に使いこなし、一旦は自分自身で封じたあの力が、今またいつの間にか、すっかり戻ってきたのだ。

　あまり色々な事が一度に起こったのが、刺激になったせいなんだろうか…。

　それなら、俺は "道" を、見つけ出さなくちゃいけない。

　…………を、

　見つけに、行くために…



　まだ…　思い出したくない なにか が頭の片すみに引っかかってはいたけれど。

　俺は、好に、会いたい。

　無意識下の自己暗示が例によって功を奏して、何故しばらくはあいつの事を考えたくないなどと考えたのか、そもそもそんな風に思っていた事さえ、都合良く俺は忘れてしまっていた。

　けれど本当に、何故、一時的にもせよ、好のほうへ感情を向けるのが、辛い、などと…。

　あいつは俺の、…………親友なのに…



　…答えを探してはいけない…



　何処かで自己防御セイフティが働いた。



　…思考は篤さんの悲しい想いのほうにずれ、依夢さんの儚い死に顔にずれ…

　連想が、スターエアでのアトルの死に至ったところでまたひとつ、大事なことを思い出さなければという気もしたのだけれど…



　俺の記憶はここで終わっている。

　目覚めると、カムちゃんが光をたたえた瞳で、俺をじっと視ていた。

((　…　おはよう。　))

　声には出さずに俺は言った。

　そしてよろしく。

　初めて出会った、俺の、同類…。

((　…　お兄ちゃん、 オハナシ できるのね！ ))

　目で見る限りではカムちゃんは殆ど表情を動かさなかった。

　ただ瞳の表情が少しばかり強まっただけだった。

　頭の内部に送られて来たイメージが、満開のバラの庭のような、笑顔では表現しきれない嬉しさを、咲きほこらせていた…。






　　　　　　　　　　…続く。