(8)。


「…ぐぅえぇ~っっ酔ったッ!」

 エアロックをぬけて居間へ戻る。

 と、丁度コクピットでは栗原が、海老さんになって自己主張をしていた。

「 清。」

 器用にミスター・スポックばりに片眉をつり上げて、好は俺を見る。

 へーへー。

「だーいじょうぶかよ、栗原?」

「栗原さん。」

 クラスメイトでもある姫が、やっぱり修学旅行ン時の盛大な酔いぐあいを思い出したんだろう、心配げな顔をするのへ、ひょいと赤ン坊を預けてしまって。

「や~い、情緒不安定。ガキッ」

「 るせ~~…ぎゃーーーーーっ!!」

 悲鳴は、もちろん、雷が光ったせいだ。

「…大気中に硫酸!」

 ひろと先輩が赤い警告灯より速く叫ぶ。

「濃度は…」

「…なァんですってェ!」

 暗視画像と動物的カンだけで船を動かしているヤニさん。また一連の悪態を語彙の尽きる気配もなく並べた。

「畜生!グリーンフォグ(緑霧)ですョ。この大嵐のせいで、こンな所まで!!」

「どうなるんだ?」と、好。

「船殻が熔けちまいまさァね。せっかくの民間御禁制のフェライトン加工が。」

 げ。

 つまりまた一方的に敵さんに追いまわされる役なわけ?

「お、なんでもいい。早く台風から出してくれえっっ」

「悪いが、前方250km、竜巻発生だ。ポイント139.67°~135.5°。」

「…緑霧湾…真上じゃ~ありやせンか……」

 ヤニさんが頭を抱えた…い。という表情を、操縦桿握りしめたまま、した。

「ふん、気に喰わねェな」

 好のオハコが出て。

「何故、日本上空でこの季節に。…この嵐はちょいと異常じゃないのかヤニ?」

「知るもンですかっ3次大戦以降、地表の気象にセオリーなンざありゃしませんよっ!

 これじゃあたしゃァ皇国軍から逃げているやら自然と闘っているのやら………ッ!!」

 またブン! と唸って機体は左右に振れる。

 突風。

 乱気流。

 エアポケットに竜巻と。

 なんでもござれだ…

 おまけに数撃ちゃ当たるの確率論式弾幕ミサイルを相手の、ひっきりなしの緊急回頭。

 栗原じゃないけどこれは…

 う。

 まずい。シンクロしちまいそうだ。胃が。

「…んぎゃーーーーーっっ」

 泣きだしたのは、栗原じゃない、ゆかり姫の腕のなかの赤ン坊だった。

「きゃ。ど、どうしたら、」

「無理だわ。この状態じゃ、」

「泣かすな。」

 またしても好のひと睨みが俺に跳ぶ。

 ンなこと言ったってなーーー!★

 俺自身、おぞまったらしい暗緑色に濁ってゆく窓の外をちらりと視ただけで、言いようのない背すじの粟だち、理屈ヌキの嫌悪感、に、やられっちまってゾクっときてるのに、(…それにしちゃ他の連中は平気なみたいだが…)、立っているのも難しい揺れのさなか、どうやって、

 …だいいち、さっきの超常感覚のショック症状から、俺まだ立ち直ってない!

 ………それにしても本当に、なんていう……

「 ぐえ~~~」

 潰れている栗原をなんとか抱え起こそうとしながら俺の眼は、抗いようもなく緑霧、いっそ麗しいとさえ錯覚できるほどに歪んだ色彩の、奇妙に光を含んだ昏さ、に、ひきつけられていた。

 しきりに赤ン坊は泣く。

「 … まだ、目覚める時間ではないはずだ。 … "アトル" が、穢れているのか。…」

 他の人間には意味不明のことを呟きながら、白い包帯のバヌマ老人は支えようとするユミちゃんの手からぬけて。

 ぐったりと重いラグビー部主将の図体を、腕一本、掴んだだけで楽々と持ち上げてしまっていた。

「 わ!」

「おじいさん! 駄目よ、そんなことしたら傷が開く…っ」

「コクピット内で吐かせてもいいのか」

 うっそりと言ってバスルームへ向け歩きはじめて、赤ン坊を抱いたゆかり姫に、

「来なさい。操縦の邪魔になる。」

「…あ、はい。…」

 それで、なんとなく俺たちは、エアロックは開け放したままバスルームと、その前の通路に移動することになったのだった。

「…針式のじゃなくて良かったわ。」

 ユミちゃんはひどい揺れのなか、どうにかしてクォクから医療用キットを取り外してきて、たぶん酔い止めの薬だろう。浸透圧式注射器を栗原に押し当てる。

 耐えきれずにゲエゲエ吐く背中を老人の武骨な掌が、静かにやさあしく、なぐさめるようにゆっくりとさすっていた。

 ゆかり姫はまだオロオロしている。

 と、

 …ズキン!

 ほとんど物質的な痛みをともなって、恐怖が俺の脳裏をつらぬき奔り抜けていった。

(( ……… 好っ ))

 振り向いても声が出ない。

 さきほどの超常感覚の、これは続きなのだった。

 危険だったのは前方と下。

 皇国軍に追われ、嵐にもまれ、もはや避けようもなく、その…

 まっただなかに、あって。

「前方70、ミサイル視認!」

「あらョっと! 甘い!」

 ヤニさんの熟練した腕が急速に、しかし安定した軌跡を描いて MISS-SHOT を回頭させる。


 ………… ガクン !!


 船を呑みこんだのはエアポケットだった。

 一瞬、気の遠くなるような衝撃と閃光。

 破壊される音。

 かすかに俺は視た。

 宇宙空間用の自由貿易船とは言い条、ミサイル数基の直撃に、ぶ厚い船殻がぺらぺらと砕け散るのを。

 覚えては、いられない。

 白金色の光を放ったのは俺であるかも知れず、もしかしたらゆかり姫の腕の赤ン坊だったのかもしれない。

 船は爆滅せず、けれどあまりの外力の強さに、ジョイントが…外れた。

「船首左方被弾!」

 ヤニさんのかすれた声がひきつったように叫ぶ。

「被害は!」

 壁に叩きつけられた好がすばやく起き上がりながら。

「船殻破損。ライフサポート停止。うわっ!…接続がーーッ」

「 好!! 」

 絞りだすように俺の声はやつを呼んでいた。

 エアロックをつなぐ太い金属棒は叩き折られ、俺たちはこぼれ墜ちようとしていた。

 バスルームのユニットごと。

 安全な、MISS-SHOT の灯から…

「 ………… 好っっ!! 」

 悲鳴、だった。

 恐ろしさにすくんでいた。

 一瞬のうちに、それとも永遠の時間をかけて、好はほとんど一息で数メートルはある居間を跳び越え通り抜け、行く先のなくなった戸口の床から身を乗り出して、怒鳴った。


「 …………… ユミ…… っ!? 」



 ………………

 そうだね。



 良く似た薄茶色の瞳をめいっぱいに見開いて凍りついているユミちゃんを、我にかえった俺は引き寄せておもいきりの反動をつけて空へ投げ上げて。

 好の妹ユミちゃんの、お守(護衛役)。

 …それがそもそもの好にとっての、俺の、存在価値。なのだから…




 最後の最後に、彼女の細い手首を、がっしりと捉えて抱え上げる、好を。

 俺は、視ていた…








(………………続く。…)




https://www.youtube.com/watch?v=Z_guyo_oAnw&list=RDJKBiO2MZSvg&index=27
ENDO CHIAKI -- Gaku

https://www.youtube.com/watch?v=DinkFO0ECpQ&index=27&list=RDJKBiO2MZSvg
Electric Shamisen 三味線

https://www.youtube.com/watch?v=-dZgf_LUvbM&list=RDJKBiO2MZSvg&index=27
【和楽器バンド】六兆年と一夜物語 Roku Chounen to Ichiya Monogatari 【VOCALOID】

https://www.youtube.com/watch?v=udFEUozNjlQ&list=RDJKBiO2MZSvg&index=27
和楽・百年夜行




…そこで何故か…?

「ちょっと育ったユミちゃん」が、そのまんま、居たりする…www
 ↓
http://orangina.jp/?utm_source=youtube&utm_medium=trueview4&utm_campaign=161107
>オランジーナ先生。

…w(^◇^;)w…☆

髪型まで、一緒だわ~っwww

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