さて再びPC前。18:20です。

室温31℃。ほぼ無風。

蒸し暑いです…(^^;)…★

https://www.youtube.com/watch?v=i8bluoACNV0&list=PL504F16BFEACEE82C
My Fair Lady Soundtrack - 1 Overture




シーンNo.1

青い空、青い海。

潮に洗われてすっかり白くなっている、古びた石畳の港のはずれ、ごく閑静なありふれた倉庫街の一角である。

現代的な服装(ラフなジーンズスタイルやツナギの作業着、サングラスなど)の、いずれも個性的な若者たちが十数人、にぎやかに笑い合いながら整然と荷の揚げ降ろしに従事している。

船は三本マストの大型横帆船で、出港が間近いらしく既に半ば以上の帆を揚げている。

みがきこまれ、ニスの行き届いた、茶色く輝く滑らかな船体。帆は白に近いベージュ色である。

そして、メーンマストの頂上には、船の明るい表情に染められたのか、どこか豪快な感じのする、風にひるがえる海賊旗。

そこへ、どうしたものかこの陽射しの中を傘もささずに、単身、優雅なものごしで一人の少女が割り込んで来る。

(少女、若者たちの指揮をしているらしい青年の一人を捕まえ、飛び切り愛想のいい笑顔で、風に吹きつけられる髪を手の平で押さえながら、高慢に)

あたくし: ご苦労ですさまね。絶好の航海日和りではなくって? あたくし、あなたがたの監督にお目にかかりたいの。取り次いで下さらない。

(青年、けげんそうに目を細めてしばし相手を見つめ)

青年: *********。

(字幕スーパー:「君は? 確か前に会った事はないね。」)

あたくし: あら、言葉が通じないなんて。「△△△△△」。

(字幕スーパー:「では日本語は?」)

(青年、わずかに意味が解ったらしく、首を振って)

青年: No, I’m Sorry.



 …それでようやく彼が英国人らしい事は解ったのだけれど、あたくし、英語は yes と no 以外は一切駄目。って、解るのは学校で習った程度。それも、かなりひどい。

 何とか片言のフランス語と手振り身振りで話を通じさせようと四苦八苦していると、何を誤解したのか、彼は流暢な仏語をならべたてながら、気持ちよく帆船の中をあちらこちらと見せて回る。

 結局最後には再び渡り板のすぐ近くまで引き戻されて来てしまった時に

 有り難い事には仲間の誰か一人が声をかけて来、あたくしは渡り板をさし示して何か言い置いて行った彼から、一人、甲板に取り残されたのだ。

 正に絶好のチャンス到来。まさかあたくしが、このまま大人しく船を降りてしまうなどとは…思われないでしょうね?考えられない。

 それで、あたくし、もう一度一階まで引き返して行って、使われていない小部屋の中へ、潜り込んでしまった。


 …


 なんであたくしがこんな真似……密航……をしたものか。

 話の筋が見えやすいように、まず、それを書いておくのが当然でしょうね。おこう。

 あたくし、実は俳優志望。だったので、(と書くと今はあきらめたように聞こえますけど)一度でいいから撮影現場なるものを是非とも実地に見たいなあと兼ね兼ね思っていました訳。ついでに言えば、その頃、自分にはチャンスさえ来れば、絶対に大女優になれるだけの才能があるのだと… 今にして思えば頬が赤くなってしまうような、実に空怖しいお話だけれど… 絶対的な自信を持っていましたのよね。

 だから。あわ良くば何かアクシデントで代役が必要になった時とかに出て行けばって、監督に自分を売り込んでおけるかも知れない。おこうという魂胆。

 小さな部屋の中で出港を待ちながら、あたくし、いつの間にやらぐっすり眠りこんでしまったらしかった。


 …


 目覚めると、そこは見知らない小さな粗末な部屋。なのだ。丸い真鍮枠の窓。鉄パイプ製の寝台。

 静かに伝わって来る、船首が波を切るかすかな音と、繰りかえす緩やかなうねり。

(ああ、そうだったわ。あたくし、あの船に密航していたのでしたっけ)

 …静寂。

 窓は結構大きいのに、部屋の中はかなり薄暗い。

 時計を見ると… 五時を回ってしまっている。

 あら、ら、あたくしったら、四時間以上も眠り呆けてしまっていたわけですの?

(大変!! ロケーションは!?)

 そこであたくしの頭はかなりはっきりして来て… 寝覚めの良し悪し云々の事ではなく、ここ数日続いていた、昼は悪夢、夜は、お父様と口論して徹夜の生活のせいで、かなり強度のノイローゼを呈していた、病的・幻覚的な精神状態から。

 えっ……?!

 まずあたくしは思い出しましたわね。

 昨日… 気がついたら、五時というのは夜ではなく翌朝だった… あの青年が案内して頂いたくれた時に見た、船内外の風景。

 船内のどこにも、ロケーション用の映画機材など見られなかった事。

 積み込んでいた船荷の大部分も、どう見ても長期間航海するつもりらしく思われるだけのい大量の食糧だった事、。云々ぬん。

 そして。とどめにあの海賊旗。

 まさか大時代的に、昔ながらのあの海賊さんって事もないのでしょうけれど、とにかく映画のロケーションなどという気楽なものでもないのは確か。(みたい)

 それに…

 それにですよ、あたくしの数少ない船遊びの経験から言っても、この船、今現在かなり速いスピードで走っている筈。

 もしも出港したのが昨夜のうちだったとすれば、ああ、ですよ。

 我が国のごく狭い領海なんてもの、とっくに抜けてしまっているのではなくって!?

 最初のショックから立ち直った後、あたくしは無邪気にも、と言うか無責任にも、と言うかとにかく手を打って喜びだしてしまった。

 だって、あまりにも良くできすぎていて、まるで本当の物語の中へでも紛れこんでしまったみたいではありません?

 ワクワクする、夢と冒険の一大ロマンス!!

 あたくしがこの時、あまりにも単純に過ぎる程の反応を示してしまった事に関しては、一応、自己弁護を試みる必要がある。(だろうと)思う。させてもらう

 我ながら、この時のはしゃぎようはちょっと正常とは言い難かったなあ、とは、思う。でも、ですよ。

 あたくしにだって一言、いい分はあるのだわ。だって、

 なぜって、あたくし、家出したいという願望は前々からあったわけですわよもの。

 ただお父様の権勢と情報力とを考えに入れると、どう綿密に計画した所で捕まって連れ戻されてしまうのが明らかだったからこそ、半ばあきらめていたdけで。

 でも、だけど、自分でも行く先が解らないような、突発的な脱出行。

 それも、海。国外。

 これならば嫌でも成功してしまいそうじゃなくって!? …

「いやーっほーーーーっ!!」 …とと。

 だめねー、あたくし。一人でいると、どうもすぐに本性が出てしまう。

 この分では当分、社交界一の貴婦人になんて、なれそうもない。

 もっとも、まだデビューしてもいないのだけれども。

 ………さて。

 それはそれで良かったのですわよね。密航した船の一室で、現在の自分の状況について分析して楽しがっているというのは。

 だけど世の中そうとんとんと話が進んだらば何の苦労だってないわけで…

 早い話しが、あたくし、気が抜けた途端にかかってしまったのだ。

 そう。船酔い。

 それでも始めのうちは結構どうって言う程の事もなかったのよ。で、そのうち治まってしまうだろうと高をくくって、気分転換にと狭い室内でバレエのレッスンを始めたのが……逆効果だった……。

 貧血起こして目は回るし、胸がむかついて、吐き気がする。鏡があればきっと顔は真っ青だっただろう。

 風が入れば少しはましかとも思ってやっとの思いで窓際までに移動したのだけれど、開かない。

 どうして!?

 もう一度なんとかベッドまで戻ろうとは思ったのだけれど、我慢できなくて、あたくしはそのままほこりの積もった床の上に丸くなってしまった。




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