そんなわけで(前項参照)
作業用音楽と本文には、ほとんど関連性がありません…☆

https://www.youtube.com/watch?v=puN0ebZfT_k
★ ★ AFRO LATIN PARTY ★ ★




 旅出ちの類型 I・ " 天 船 "



 だるいの。

 あ、また来たな。体が動かない。

 あたしは椅子からずり落ちる。床に寝そべってしまう。

 金縛り… と言うのだろうか、こういう状態を。

 違うと思う。金縛りっていうのは身体の自由が利かなくなること。あたしのは、心が。

 精神(こころ)が自由に使えなくなるのだ。奈辺かへ連れて行かれてしまう。

 だるくなるのは、単に副次的なもの。

 …なんにせよ。

 決心していた。

 今日こそは。これの正体を見極めてやる。

 いつもいつも不意にやって来ては頭痛と冷感を残して去っていく、不確実な現実と夢との狭間にあるものの、正体。

 ひきつけられる、誰かに呼ばれている。

 動かない心のなかでそれでも眼を閉じなかった。やがて…



(あーにゃふらーあまふな)

 あたしの内側に呼ぶ声が聞こえてくる。誰?

(あーにゃふらーあまふな)

(あーにゃふらーあまふな)

( 来てよ 来て 来て 来て… )

(あーにゃふらーあまふな)

 アーニャフラーアマフナ。

 それは、あたしのことだ。唐突に、わけもなくそう思う。

 いつか何処かで聴いた声はあたしを呼び続けていた。

 意識が白濁する。どこか "異(ちが)う" 処にあたしの魂は居る。

(手伝って。アーニャ・フラー・アマフナ)

 ぼやけた白の空間で誰かが手まねきしていた。

 1度も見知らない顔、同時になによりもよく知りぬいた相手。

(なにをすればいいの)

 あたしが、ううん、あたしではない《あたし》が表に出て受け応えしていた。

 自分が半透明なガラス戸にでもなった気分。

 あたしは確かにここに居るのに、もう1人の《あたし》が背後にいて、ガラス戸のあたし越しに意識している…

(あれよ)

 夢のなかの女……女性だった……は、イメージの内で何かを指さしていた。

(あのマを倒してほしいの。力を借して。)

(わかったわ)

《あたし》は軽く肯いて力強く前に踏みだす。

 空間の暗闇に念をこらす。

 事はすぐに片づいた。

(ありがとう。今日は簡単に終ったわね)

(そうね。じゃ、帰るわ。)

《あたし》はあたしの内部に埋もれて行こうとした。《彼女》もまたあたしの視える範囲から徐々に遠ざかって行き…

(待って!)

 叫んでいた。それはあたし



 誰なの… あたしの問いに、

《彼女》は優雅な猫のように微笑んで振り返っていた。それだけは覚えている。





「麻子。ちょっと、起きなさいったら。風邪ひくわよ」

「ん……」

 強引な声にひき反させられた現実。

 おかあさん。あたしはいつも眠たくて寝てるわけじゃないのよ。

 いつものように冷汗でぐっしょり。頭はクラクラするし、体中から精気が抜けている。

 まるで長距離を全力で走らされた後のような脱力感。なのにあの心地良い疲労感には程遠い。

 知らないものに自分が振りまわされているという、恐怖に近い不安感。

 いつもと全てが同じ症状だった。ただ、違うのは…


 覚えている。1つだけ。振り向いた《彼女》の、猫のような笑み。


 なん、だったんだろう、あれは。

 何か不思議なものを見た気がする。何か不思議なことを、尋いて、教えられたような気が。

 そして《彼女》。

 そう… 何処かで見知っているような、それでいて1度会ったなら2度と忘れていられる筈のない。

「ちょっとどうしたの麻子」

 母さんが心配そうにのぞきこむ。

 それでもあたしの "貧血" が、普通のものではないとは、思っていないみたいね。

「なんでもない。ちょっと出かけてくるわね」

 猫の微笑… それだけが手掛かりだった。

 あたしは悪寒の残る体をひきづりあげて部屋の戸を開ける。

 あの美女は何かを言ったのだ。それが頭の中に鍵になって残っている。

 " 扉 "を探し出せば… それは開く筈、だった。





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