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山路みほ 「鳥のように」 2009.02.04 大阪フェニックスホール



「まったく失礼しちゃうわ!」

 薄暗い地下鉄の中で竜子がかわいいほっぺたを真っ赤にふくらませていました。

 ママと喧嘩して家を飛び出してきたばかりなのです。

「いつまでも子供あつかいしないでほしいわ。あたしだってもう8つなんだから。」

 竜子は、自分はもう充分大きくなったと思っていました。

 だって、一人でお留守番もできるし、お使いだって、お洋服を着るのだって、大人に負けないくらい早くできるのです。

 それなのにママったら………。

「電車にだって一人でちゃんと乗れたじゃないの。:

 竜子の手には20円の入場切符がしっかりとにぎられています。

 コトトン  コトン コトトン コトン  コトン …

 電車は静かに歌いながら走り続けます。

 地下の闇の中で、いつしか竜子は眠りこんでしまいました。

 窓の外を流れてゆく青白い顔の水銀灯が、竜子の顔をまだらにそめていきます。



 どれほどの時がたったのでしょうか。竜子はまだ眠り続けていました。

 と、突然、電車に急ブレーキがかかって、竜子は気持ちのいい座席のクッションの上から冷たい床の上へと、放り出されてしまいました。

「いったァい! 電車さんのいじわる!!
 人が気持ち良くお昼寝してるときに、落っことすことないじゃない!」

 でも、起き上がった竜子の目に電車の姿は写りませんでした。

 竜子のまわりには何も無かったのです。遠くでかすかにまたたいている星の他には。

「お空の上に出ちゃったんだわ。」

 竜子は泣き出してしまいました。

(でも別に気にすることはありません。大人だってこんな時には泣くでしょうから。)

「おうちにかえれない。」

 竜子は自分が家出の最中だなんてことはすっかり忘れて泣きじゃくっていました。

 いきなり宇宙空間に放り出されれば、だれだって細かい事を気にしているわけにはいきませんもの。

「何をそんなに泣いているの?」

 突然、竜子の後ろで声がしたので、竜子はびっくりしてしまいました。

 こんな所に人がいるなんて!!

 ………でも、ふりむいた竜子の目に写ったのは、さっきまでの荒涼とした宇宙空間ではありませんでした。

 青です。

 見わたすかぎり一面に広がった薄青色の草原なのです。

 そして青く透きとうった美しい草には、小さな銀色の花が咲いていました。

 それが、風





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