2-5.帝国と "谷の一族"

あまたに分かれた旧王国の数々は、へき葉国のすすめたゆう和外交と婚姻と相続の果てに、やがて、ただ一人の王に王位が収れんされ、唯一の王のもとに統治される領域は帝国と呼ばれるようになった。

帝国領は水母大陸の比較的冷涼乾燥した南西部を中心にひろがり、大陸の北西にひろがる広大な密林地帯はいまだ小国小邑が点在するばかりの未開の領土であった。

この頃、いつからともどこからとも知れず、大陸の北西部のひよくな森林地帯に、大河の流域に沿って点在するあらたな人々が住みついた。

この人々は帝国の一般的な人々と異って、肌の色が濃く、髪の色は黒く豊かな直毛が中心で、よく陽にやけて体格も大柄だった。

彼らは一人の王や帝王のもとに統治されることを好まず、木とつるなどのみで作られた大きな家々に主に血族と姻せき等からなる大家族単位で住み、なにか決めごとが必要なときには家のものすべて、また集落のすべての者が一堂に集まり、いく夜もの話し合いをへなければ、決めることがなかった。

帝国は彼らが臣従せぬのを許し、またその領域たる谷の森は侵さぬことを約し、代わりに毎年数百人の武人を帝国にさしだすよう求めた。

谷の一族はすぐれた狩人であり、帝土の政争にくみせぬ、忠実な護えいとしてよくつとめた。

また、流芸人を多く出し、大陸全土に季節ごとに旅して歩く、彼の姿は見られるようになった。

神を持たぬ帝国の民と異なり、谷の人々は数々の神と神話を語った。




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