ピチョーンと滴り落ちる水滴。
精一杯の力で少女が岩を押しのけると、向こうに壁に守られて岩から免れた空間があり、若者が倒れている。
天井のすきまから、明けてきた朝の空が見え、光がこぼれている。
少女の手が若者の額に乱れ落ちた髪をなであげる。
少女「ミヤセルさま…」
若者が弱弱しく目をひらく。はっきりと死相が出ている。少女、泣く。
少女「待っていて下さい。今…今、手当してさしあげますわ。すぐに… よくなります。水を探して…」
蒼ざめて立ち上がろうとする少女の手を若者がつかまえる。
若者「行かないで。無駄だ… わたしは、もう救からない。」
少女「馬鹿なことをおっしゃらないで。すぐによくなります!」
若者「戦場で、略奪された街で、なすすべもなく死んで行く者たちの姿をわたしは大勢見てきたよ。だから…」
少女「あたしは薬師ですわ!」
若者「いいからここにいるんだ。話を…最期の…聞いておいてほしい。」
少女「ミヤセルさま…」
少女の涙が若者の頬にしたたり落ちる。
若者「泣かないで… わたしは謝らなければならないのだから。きみに… そして、全ての民に。」
少女「ミヤ…」
若者「ミヤセルではない。わたしの、本当の名前はマリシアル。行方不明の、ルア・マルラインの皇子だ…」
若者「マシカ、驚かないのだね」
少女「知って… いましたもの、あたし。素性を隠されるおつもりだったのなら、あなたはずいぶん無用心過ぎましたわ。」
若者「本当だな…(笑う)」
若者「不意打ちにあって城の陥ちたあの日、父王も母王も大臣たちも、皆、目の前で殺された。逃げのびる途中で妹とも離れ離れになり… 誰もがあの子も死んだのだろうと言ったが… わたしは、それだけは信じられなかった。わたしはマーライシャを愛していたから… 兄としての想いよりも、もっと強く。
そうしてわたしは皆の反対も止めるのも聞かずに、あてのない旅に出た。己にかまけて義務を、民人を放り出して来たのだ… 皇としてあるまじき振る舞いだ。
とうとう、国を守り奪り返すための戦いに… 加わることもなく…」
少女「ミヤセルさま、ミヤセルさま!」(首を振る)
若者「謝らねばね、マシカ。わたしはいつでも、あなたを通して、妹を視ていた。…
いつの日か、あの子が、国の平和を取り返し、わたしの消息を訊ねてこの村へやって来る時もあるだろう。
そうしたら、マシカ、伝えてほしい。
わたしの愚かなふるまいを…
いつか、マーライシャに会ったら…」
(静かに目を閉じる)
若者「…マー…ラ…イ…シャ…」
少女「ミヤ… ミヤセルさま… 皇子…!!」
(呆然として涙。)
崩れた岩山を背景に真新しい墓がある。
その前に立ち尽くしている少女。
地面から若者の弓を拾いあげる。
少女(一礼して)「御形見に、いただいていきますわ。この弓。…どうぞ…安らかに眠って下さい。…あたしの…」
振り向いて、どこまでも緩やかに起伏して続く草原の地を歩きだす。片手に弓。片手にむきだしになった宝玉をぼんやりと携えて。
どこまでも、どこまでも…
BGM、静かにかぶせて、作画とか声とかの字幕を出す。
静かに遠ざかっていく少女。
完全に見えなくなったところで一旦【fin.】マーク。
溶暗。
ごとりと音がして暗闇の中から、岩を押しのけて鬼王の手が伸びる…
(で、完全に「おしまい。」)
(ぅわ~あぁぁっ! 根暗いッッ!!)
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