満月の晩。山深い森の奥。（高校～同人誌時代？）

　満月の晩。山深い森の奥。土をかぶせた焚き火のかたわらに若者が眠っている。夢の情景（シーン）。
　緑の豊かなまき毛をひるがえして女の子が城の庭を走りまわっている。さんさんと降りそそぐ陽光。笑い声。もう少し幼い頃の若者がいる。

女の子「お兄さま！お兄さま！お待ちになってったら、ねえ！」

笑って逃げる若者へめがけて信じられないほどに高く空へ翔びあがる女の子。受けとめようと伸ばされた腕の中へ。

若者「そんなにも高く大地から離れて！恐くはないのかい？」
女の子「平気よ！私は飛仙族（エルフエリ）たるお母さまの血を濃く継いで生まれついたのですもの！」

幸福な兄妹。それを遠くから見つめている両親。４人とも、額に高貴な身分であることを示す布飾りを巻いている。

遊びつづける兄妹。その背景で人の動きが慌ただしくなる。両親のそばにはもう１人の貴人（飛仙）がつきそっている。
大人たちと共に会議の卓を囲む若者。苦悩の表情。

ひとり庭で遊ぶ女の子。ほがらかに笑って振り返りかけ、凍りつき、恐怖し、やがて悲鳴をあげる。

炎につつまれた城の光景。おしよせる鬼ども。切り殺される両親。兄妹は剣をとって逃げのびるべく戦っている。乱闘のなか、つないだ手がはなれ、呼びあいながらも次第に遠ざかって行く２人。消えて行く声。

音の子「お兄さま！お兄さま～っ！」

暗転。がバッと飛びおきる若者。朝もやのたちこめる森。焚き火からひとすじの煙がたちのぼっている。枝につながれたみごとな馬が気づかわしげにいなないて地面を掻く。