もう全て語られるべき事は終ってしまいました。風が吹いて、マ・バルナがどうと揺れます。條々の葉が一斉に裏がえって、冬になりそめの陽ざしを、きらきらとはじくのでした。
 エルフエリはただの山娘にすぎないマシカの前で、まるで白き都の宮中で女皇(めのきみ)にでも拝するかのように敬々しく膝をつきました。そして静かに、その額飾りの上にくちづけたのです。
 上位者が祝福を与えるというよりも、小さな娘が聖なる神々だとでもいった風な口づけでした。彼はささやくように飛仙の貴人同士の、古来からの別れの言葉を告げました。
「ル・サランナラン、ウ・オルンノルン、カイザム。
(あなたの行かれる道があなた自身のものでありますように)…!」
 その、異世界から仙一族の始祖が持ち来たった言葉の意味をマシカは理解しませんでした。それでも少女は黙って真っ直ぐにフェルの見つめる眼を見返して、やがて言ったのでした。
「また、いつか、会えますね」
 それは確かな予感、清浄な少女の、予知とも言うべきものでした。
 エルフエリはふっと微笑んで、
「あなた自身が、それを望むのならば、必ず。」

 飛仙の姿はみるみる空の高みに溶け込んで、小さくちいさく遠くなってしまいました。
 マシカはいついつまでも目を細めて東のかたを見送っていました。
 それから…西方の彼方を。
 北からの風が轟と鳴ってどうと鳴って森を揺るがせにして通り過ぎて行きます。マシカは流れていく髪を片手で払いのけて、最後に、もう一度だけ真東の空を見透かしました。

 冬の時代が来るのです。

 それから山百合は、もうずいぶんと遅れてしまった村里に降りる仕度を片付けに、すたすたと山を下って行きました。


===============

https://www.youtube.com/watch?v=Q1OMw6MGQV8&index=23&list=PL84B3D5CA11D27259
Slängpolska från Närke

コメント

最新のコメント

日記内を検索