(続・没原稿 2)
2016年1月22日 リステラス星圏史略 (創作) コメント (1)(作業BGM)
https://www.youtube.com/watch?v=T-UwSKCaAtI
Afro Celt Sound System - Deep Channel
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幸いな事に、鋭の心配はまるっきりの取り越し苦労に終わった。その日の夕刻、真里砂は朧ろげながら意識を取り戻すとすぐに、雄輝と鋭がどこに居るかと尋ねて、枕元へ呼んでくれるようにと村人たちに頼んだのである。
しかし真里砂の声は熱の為にひどくかすれて聞き取りにくかったし、村の男たち、殊に昨夜大暴れした雄輝から少なからぬ被害を受けた若い連中の間には、二人の少年に対する何かしらの誤解が生じているらしく、気力も体力も衰えていた真里砂にとっては、とにかく自分がいいようにするからあなた達は馬鹿な真似をするな…と、雄輝宛ての伝言を頼むのがやっとの事であった。
かすれた、妙に震えるような筆跡で、どうにかそれをしたためると、複雑に角張ってみたり、急に丸く小さくなったりする非音楽的な文字のられつを傍らにいた少年に託して、真里砂は再び悪夢との最後の1ラウンドを闘い抜きに泥沼の淵へと沈んだ。
(その夜見た悪夢については、それがひどく大事なものであったという記憶にも関わらず、覚えていられたのは真里砂 対 もう一人の真里砂 ~マーライシャ~ の闘いだったという事と、誰か雄輝によく似た年上の少年が必死に呼び求める声。そうして、結局の所、真里砂本来の姿は破れさって、仮の真里砂が勝ちを占めたのだった。が、現時点での真里砂が実は偽りの形なのだ、と本人が気づくのは、実際にはもっと後になってからの事である。
翌朝。真里砂彼女は朝焼けの最初の一筋に起こされて、どことなくなつかしい想いを抱かせるような、不思議に落ちついた造りの小部屋で目を覚ました。
白い土の壁、茶色い古びたつやを出している古い床柱、天井、梁。太い床柱。白い土の壁。明るい色合いの腰板。
朝焼けと思ったのは白壁の反射光で脚の側の天井近くに切ってあるれんじ窓が狭いせいで、実際には、首を斜めに向けて見て初めて気がついだのだが、半開きになった観音開き様の窓から見える空はかなり明るい。まだ半ば夢現つの、ぼんやりした気分で辺りを眺め渡していた彼女は、やがてそこが普段は使われない客用寝室とか何かの類いなのだろうと見当をつけた。部屋には誰もいない。
おそらく37度2~3分といった微熱と全身のだるさ以外、殆ど昨日一昨日の痕(あと)らしきものが残っていないのを確かめて、真里砂はにっと満足の笑みを洩らした。自分の体力と生命力に対する満足感である。
これまでも、真里砂は同い歳の連中が風邪だ流感だと言ってはばたばた1週間も2週間も寝込むのを横目で見ながら、寮母(ハウスマザー)の看護の助手をしてきたし、たまに熱を出す事があっても、誰よりも立ち直りが早いのだ。12歳の勝ち気な少女にとっては、これは十分自慢にしていい事である。
丁度その時、扉を開ける物音がして、彼女は背中に枕ともクッションともつかぬ綿の塊をあてがって貰い、どうにか自分で食事を摂る事ができた。
「こいつ、おまえがもう一度記憶喪失にかかるんじゃないかってんで、夜も眠れなかったんだぜ」
ようやっと真里砂の病室にひったてて来られた雄輝が、とうとう無理矢理白状させてしまった事実を種に鋭を笑いものにする。鋭が怒って枕を投げつけようと振り上げるのを、張り番の若者がぎろりとにらみつけた。少年二人…特に雄輝の方は、縄こそ打たれていないものの、重罪人扱いにされているらしいのだ。真里砂は大きな枕の上で楽しげに小さな声をたてた。
「だけどマーシャ、いったい僕らの立ち場はどういうものなんだい?」鋭が見張りを指さしながら興味しんしんといった態で聞き、「解らないわ」と真里砂は首をすくめる。
「あなたたちの事をティクト・ミリサイって言っているでしょ? ティクト・ミリス・アイ…地球人の少年たち。どうやら地球人ティクトが、わたし、大地の国の人の少女ダレムアト・マリュシェヤンを、さらって来たっていう風に解釈されているらしいけど、この誤解はすぐ解けると思うの。それより… あら、鋭、なあによ。」
言い返されて、話している間中、じっと真里砂を見ていた鋭は、どぎまぎと赤面しなければならなかった。「いや、あの、熱が引いて良かったな~と…いやつまり、僕らろくに食べてないんだ。そのゆで卵、いらなければ…」「誤魔化そうって言うの?それだけじゃないんでしょ。白状なさい」
「おい鋭。マーシャを怒らすなよ。怖いぞ~」「雄輝!!」
鋭がしかたなく、小さな声で、「髪…」とだけ言ったのを聞いて真里砂は、はっと自分の頭に手をやった。
「あたしの鬘(かつら)!」
一昨夜落とした時から、真里砂の緑色の自毛はずっとむき出しのままだったのだ。言われて初めて気がついて真里砂はかなり慌てたが、それから、ここ…どこかは知らぬが…では、緑の髪をかくす必要はない筈だと気がついて、また少し笑って見せた。
https://www.youtube.com/watch?v=T-UwSKCaAtI
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幸いな事に、鋭の心配はまるっきりの取り越し苦労に終わった。その日の夕刻、真里砂は朧ろげながら意識を取り戻すとすぐに、雄輝と鋭がどこに居るかと尋ねて、枕元へ呼んでくれるようにと村人たちに頼んだのである。
しかし真里砂の声は熱の為にひどくかすれて聞き取りにくかったし、村の男たち、殊に昨夜大暴れした雄輝から少なからぬ被害を受けた若い連中の間には、二人の少年に対する何かしらの誤解が生じているらしく、気力も体力も衰えていた真里砂にとっては、とにかく自分がいいようにするからあなた達は馬鹿な真似をするな…と、雄輝宛ての伝言を頼むのがやっとの事であった。
かすれた、妙に震えるような筆跡で、どうにかそれをしたためると、複雑に角張ってみたり、急に丸く小さくなったりする非音楽的な文字のられつを傍らにいた少年に託して、真里砂は再び悪夢との最後の1ラウンドを闘い抜きに泥沼の淵へと沈んだ。
翌朝。
朝焼けと思ったのは
おそらく37度2~3分といった微熱と全身のだるさ以外、殆ど昨日一昨日の痕(あと)らしきものが残っていないのを確かめて、真里砂はにっと満足の笑みを洩らした。自分の体力と生命力に対する満足感である。
これまでも、真里砂は同い歳の連中が風邪だ流感だと言ってはばたばた1週間も2週間も寝込むのを横目で見ながら、寮母(ハウスマザー)の看護の助手をしてきたし、たまに熱を出す事があっても、誰よりも立ち直りが早いのだ。12歳の勝ち気な少女にとっては、これは十分自慢にしていい事である。
丁度その時、扉を開ける物音がして、彼女は背中に枕ともクッションともつかぬ綿の塊をあてがって貰い、どうにか自分で食事を摂る事ができた。
「こいつ、おまえがもう一度記憶喪失にかかるんじゃないかってんで、夜も眠れなかったんだぜ」
ようやっと真里砂の病室にひったてて来られた雄輝が、とうとう無理矢理白状させてしまった事実を種に鋭を笑いものにする。鋭が怒って枕を投げつけようと振り上げるのを、張り番の若者がぎろりとにらみつけた。少年二人…特に雄輝の方は、縄こそ打たれていないものの、重罪人扱いにされているらしいのだ。真里砂は大きな枕の上で楽しげに小さな声をたてた。
「だけどマーシャ、いったい僕らの立ち場はどういうものなんだい?」鋭が見張りを指さしながら興味しんしんといった態で聞き、「解らないわ」と真里砂は首をすくめる。
「あなたたちの事をティクト・ミリサイって言っているでしょ? ティクト・ミリス・アイ…地球人の少年たち。どうやら地球人ティクトが、わたし、大地の国の人の少女ダレムアト・マリュシェヤンを、さらって来たっていう風に解釈されているらしいけど、この誤解はすぐ解けると思うの。それより… あら、鋭、なあによ。」
言い返されて、話している間中、じっと真里砂を見ていた鋭は、どぎまぎと赤面しなければならなかった。「いや、あの、熱が引いて良かったな~と…
「おい鋭。マーシャを怒らすなよ。怖いぞ~」「雄輝!!」
鋭がしかたなく、小さな声で、「髪…」とだけ言ったのを聞いて真里砂は、はっと自分の頭に手をやった。
「あたしの鬘(かつら)!」
一昨夜落とした時から、
コメント
「すべて手書きで」!(@@;)!
…何度も何度も、書き写しながら書き直していた。という点に尽きますとも…★www