(記憶に頼って復元。)
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   さびしかったから。



 さびしかったから、

 さびしかったから。


 猫を飼おうと思っても

 自分の猫、を、選ぶ方法すらわからなかった。

 どの猫も、みんな可愛い。

 めうつりするけど、どれも飼えない。


 さびしかったから、

 飼おうと思った猫とは縁がないことばかりで

 さびしかったから、

 もう飼うまい。

 そう思っていた鼻先に、おまえが押し掛けてきた。



 さびしかったから。

 

 座り込みをし、

 シュプレヒコールをし、

 借家の雨戸をひっかき、

 玄関をひんむいた。

 私のもとに居座るために、おまえが働いた乱暴狼藉の数々。

 (--#)

 だれを選んだらよいのかすらわからぬ愛情欠乏の私に、

 おまえは、自分で私を選んで、小さな足でとことこ走って、

 しつこくわめいて、

 愛情を要求してくれた。



 さびしかったから。


 私のように孤独に慣れすぎたものには、

 おまえほど、しつこくずうずうしく叫んでくれる存在が、

 けっきょく一番ちょうど良く必要だった。



 さびしかったから。



 おまえにかけられる迷惑も心労の数々も、

 放射能のなか、置いて逃げる、ということは

 考えてもとても実行できぬほどに

 私は

 おまえに依存していた。


 おまえのほかには誰もいない。

 これほど私に「ちょうどよい猫」は

 いまもむかしもぜったいに他にはいない。


 さびしかったから。

 さびしかったから。



 おまえは神様がくれた猫。

 ほんとうの猫。

 世界でただ一匹だけの特別な猫。

 神様がくれた猫。

 …………



 さびしかったから。

 さびしかったから。



 私はおまえが要求する愛情を

 十分には与えてやれていなかったと思う。


 さびしかったから。

 さびしかったから。


 いつでもお留守番ばかりで、

 エサも手抜きで

 やつあたりするし、

 うるさく愛情をねだられると、

 ポイポイ放り出したりするし……



 さびしかったから。

 さびしかったから…。




 
 いつのまにかおまえがいなくても何とか生きていられる私。

 もうどんなに哀しくても決して鬱病と自殺願望の陥穽には後戻りできない私。


 今なら「自分の誰か」を選ぶ方法なら、ちゃんと分かっている。

 自分のベストを尽くして生きて、その自分を選んでくれる相手。

 それが、人生の伴奏者になるのだ。



 さびしかったから。

 さびしかったから…








 今、

 おまえがいなくなってしまって、

 ほんとうに、









 私は、

 寂しい…

















 

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