2011年 経済の潮流を読む
 長期停滞の原因直視を
 東京工科大教授 工藤昌宏さん (上)

 「失われた20年」という表現もそろそろ使用期限切れだというのに、日本経済は停滞から抜け出す気配すらありません。失業率は高止まりし、雇用不安がまん延し、雇用者報酬は1990年代中ごろから現在までほぼ一貫して低下し続けています。当然ながら、消費支出、消費者物価、株価、設備投資といった経済指標は軒並み停滞を示しています。
 対照的に、大企業の内部留保は増大し続け、株主配当も増加傾向にあります。この国にいったい何が起きているのでしょうか。どうすればこの停滞から抜け出すことができるのでしょうか。
 最近まで、経済界は日本経済の停滞の原因はヒト(労働力)、モノ(設備)、カネ(負債)の三つの過剰にあるとして、長期にわたっていわゆるリストラを続けてきました。しかし、それが限界に突き当たるやいなや、今度は、停滞は企業の競争力が弱まっているからで、それは法人税が高いせいだとして、その引き下げを政府に強く求めてきました。


 新たな理屈

 日本経済が停滞しているのは、最初は労働力が多いせいで、次には税金が高いせいだというわけです。しかしそもそも、未来を担うべき人材を育成することもせずに、それらを単純にコストとみなして大量に排除したのでは、競争力が低下するのは当然です。
 また法人税率を引き下げたところで、内需が大きく沈み込んでいる中では、それによって設備投資が拡大し、競争力が強化されるとは考えにくく、単純に法人税収の減少を招くだけです。しかも巨額の内部留保を抱え込んだうえに高配当を続けていながら、さらに競争力強化のためだといって法人税率を引き下げよというのはあまりにもむしが良すぎます。このようなご都合主義の経済界に、停滞からの脱出の原動力を期待することはできません。
 そうなれば、いよいよ政府の出番ということになります。しかし、財政危機だから消費税率引き上げが必要だという短絡的な姿勢を示し、また法人税率の引き下げにもいとも簡単に応じてしまう政府では、これまた期待できません。経済界にも政府にも、この国で今何が起きているかが見えていないようです。いったい、「失われた20年」は何が原因で引き起こされたというのでしょうか。


 政策の無力

 猛烈なリストラや非正規労働者の大量雇用、さらには成果主義の導入などで雇用と賃金の安定性を破壊し続ければ、経済が停滞しないわけがありません。このような日本経済の足元の現実に目をつぶり、ひたすら大企業の収益の拡大を追い続け、国民生活に背を向けてきた大企業と政府の姿勢こそが、異常な長期停滞の最大の原因ではないでしょうか。
 深刻な事態を前にして、政府はなすすべもなく経済界に引きずられ、的外れの政策を繰り返し、揚げ句には政争に明け暮れています。その結果、経済政策にも無力感が漂い、日本経済も漂流することになります。これでは確実に「失われた30年」に向かうことになります。「失われた20年」で失われたものは、実はこのような企業と政治に対する国民の信頼そのものではなかったでしょうか。
 だとすれば、まずはこの信頼を回復することが、停滞から脱出する第一歩となるべきでしょう。

(つづく)
(日本共産党 http://www.jcp.or.jp/
 機関紙「しんぶん赤旗」http://www.jcp.or.jp/akahata
 2011.01.07.)



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