「あきらめない」 青年が労組結成
 職場が変わり始めた

 愛媛県大洲市の化粧品工場

 あきらめずに職場を変えようと、愛媛県大洲市で青年たちが労働組合を結成しました。団体交渉で初めて会社と対等に話し合いました。要求を実現し、職場は変わり始めています。


 背中押され本気に

 昨年8月中旬、市内のハローワーク。有給休暇をとって訪れた(略)さん(32)は退職する覚悟でした。
 「もう会社には何を言っても無駄だ」。正社員で約1年勤めた職場に見切りをつけ、気になっている求人先を紹介してもらうつもりでした。
 応対した職員に、「何があったの?」辞める事情を問われ、一方的に賃下げされたと訴えました。「労働組合が力になってくれるよ。辞めずに、もう少し頑張ってみてはどうですか」
 想定外の展開でした。
 ただ、あきらめることはないと気付きました。以前、聞いたことがあった「全労連」をインターネットで検索。愛媛労連の労働相談センターにたどりつき、その日に電話しました。労働組合に連絡するのは初めてでした。
 「職場に残るなら、労働条件を改善していける。信頼できる仲間に呼びかけてみなさいや」。電話を受けた愛媛一般労働組合の井伊和武委員長(63)は、職場に労働組合をつくって要求を実現しようと提案しました。「僕の話に、『おかしいね』『許せないよ』と共感してくれた」と(略)さん。数人の同僚を集めれば、地元まで説明に来てくれるという井伊さんの熱意に、背中を押されました。「なんだか本気で労働組合をつくってみようと思いました」


 突然、2割の賃下げ

 職場は、伊予灘に面した市内の工業団地で、2009年7月に操業した化粧品の製造工場(本社・松山市)。パートを含め、工場の従業員約60人のほとんどが地元から新規採用されました。
 (略)さんは地元の高校を卒業後、石川県内の半導体工場などで10年ほど働いていました。親から地元に工場ができると聞き、「戻ってきてほしい」と期待されました。4人きょうだいは全員、県外で就職。「地元で働き、家庭を持ちたい」と帰郷し、入社しました。
 工場の生産が軌道にのるまでの数カ月は連日、深夜まで残業しました。工場を立ち上げてきたという誇りがありました。働きぶりを評価されていると思っていました。
 しかし、入社して約1年がたった昨年7月。突然、平均2割もの賃下げ方針が出てきました。これまでも、月の手取りは約16万円(基本給は12万円)と低く、賃上げもなし。賃下げの理由を聞いても、納得のいく回答はありませんでした。
 さらに、個別に同意書の提出を求められ、抵抗して最後まで提出しなかった(略)さんら4人は、退職に追い込まれかねない事態でした。


 2桁の組合員で結成

 電話での相談から数日後の平日夜。市内の喫茶店の一室で、労働組合の説明会が開かれました。
 青年を中心に、予想を上回る10人の同僚が参加。「みんな目つきが違っていた。熱かった」と(略)さん。
 初めて職場の問題を語り、労働組合を知りました。「自分たちは間違っていなかった」「“労働組合が会社をつぶす”とは偏見だった」が確信に。その場で加入を決意した青年もいました。
 その8月下旬、2桁の仲間が集まり、愛媛一般の支部を結成しました。組合員の平均年齢は29歳。(略)さんはその委員長です。
 これまでは、会社に不満があっても愚痴るだけでした。もう黙ってはいません。「上司と部下の関係では、話も聞いてもらえない。僕らは会社と対等に話し合いたかった」。組合員は口をそろえます。
 団体交渉は緊張しました。「会社が重い腰を上げて交渉の場に出てきた。組合をつくらなかったらあり得なかった」
 賃金を改悪前に戻せと要求しています。有給休暇は、事前に申請して許可を取るやり方をやめさせました。


 4月 広がる期待

 組合活動を始めて4カ月、職場の指示と期待は広がっています。
 12月に実施された会社の従業員代表選挙。その結果に、みんなが驚きました。立候補した支部委員長の(略)さんが、会社側の推す候補を相手に当選。しかも、票数は52対3の圧勝でした。
 組合は、初めて一時金などの要求アンケートに取り組み、職場の意見をくみ上げてきました。アンケートは7割を超える従業員が応じてくれ、「組合、頑張れ」との書き込みもありました。


 「組合は僕らの希望」

 (略)さんら支部組合員の学ぶ意欲は旺盛です。井伊さんが彼らの集まりに行くと、必ず「これはどうなっとるんじゃろうか?」と質問攻めにあい、閉会後まで彼らに囲まれます。
 各地で組合結成を支援してきた井伊さんは、「非常に熱心。若い人のエネルギーだ」と評しました。
 (略)さんは昨年10月、全労連が仙台市内で開いた初級教育講座に参加しました。「組合員のためにも勉強したい。質問され、いつまでも『わからん』と答えていると、みんなの信用をなくしてしまう」と照れました。
 (略)さんは言います。「もうあきらめることはありません。ここには労働組合がある。組合は僕らの希望です」

明日をめざして 立ち上がる労働者たち
(酒井慎太郎)
(日本共産党 http://www.jcp.or.jp/
 機関紙「しんぶん赤旗」http://www.jcp.or.jp/akahata
 2011.01.04.)



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