(旧ファイル分類:「はじまるまえの物語」/2010.11.07.変更)

 http://85358.diarynote.jp/200911020118119806/ の続きです。


 
「そろそろじゃないか?」
 夜明け前に基地のゲートを後にして何カ所かで寄り道をして、すでに太陽は天高く、遮るものとてない荒野のなかの一本道を情け容赦なく焦がしつけている。
「目印を見落とさないようにしないと……」
「あれか?」
「ちょっと違うんじゃないか?」

 四人乗りの軍用ジープに大の男が七人も相乗りしているので車上は狭い。前に二人、後部座席に詰め込んで三人。じゃんけんで負けた不運な二人はその後部座席の三人の間にそれぞれの脚部を突っ込んで、腰をかけているのは後ろの荷台の上だ。
 運転席とその隣の会話を聞くともなしに聞きながら、岳人は使いこんだ望遠カメラを胸に周囲の風景を眺めまわしていた。照りつける日差しが目を痛めないよう、愛用のカメラジャケットを頭に被っている。
 岳人の隣に座っている記者は書くほうが専門だ。ときおり鼻をすすり上げ、嗚咽の声をかくすこともなく拳で涙を横殴りにこすりながら、手にした野外帳に今さっき見てきたことを脇目もふらずに書きつけていた。

「あった。あれだ……」
「曲がるぞ。後ろの二人、落っこちるなよ。」

「ああ。」岳人は足に力を入れなおして頷いた。隣の男はしゃくりながらも一瞬たりと書く手を止めず、しかし聞こえていた証拠に前に低く屈んで、完璧に整備舗装された軍用道路から外れて岩漠荒野へ出るという車の揺動に備えた。

 しかし。

 次の瞬間に襲ってきた衝撃と、音と閃光と熱と煙とは、そんな予想を超えた。

 岳人は自分のからだが激しく宙に舞い上がったのを感じた。

 それっきり、あとは覚えていない。



  

コメント

霧木里守≒畑楽希有(はたら句きあり)
2010年3月5日13:20

(※2010.03.05.「ひみつ」から出しました☆)

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