(旧ファイル分類:「はじまるまえの物語」/2010.11.07.変更)

http://85358.diarynote.jp/200910312211144035/
 続き。

 
 
 
「おれは10年前にもここへ取材に来たことがある……」
 一人の記者が、ちからなく呟いて涙を落とした。あまりの変貌ぶり、あまりの荒廃に。
 見渡す限り、至るところ、爆撃痕、銃撃痕、血痕、大規模火災の残骸。

 ときおり鋭く、ガイガーカウンターだけが短く叫ぶ。

 危険! 危険! 危険! ……

「うるせぇ!」と、誰かが毒づきながらスイッチを切ってしまった。
 どこもかしこも、「即刻退避!」と規定されている安全基準値をはるかに超えている。

 あれのせいだ。あの兵器。
 みんなもちろん解っているが、我が身の安全のためにA軍の基地内に逃げ戻ろう……とは、誰も言い出さない。

 かつては繁華な商店街であったろうところは黒く焦げつくした瓦礫の山となり、豊かな穀倉地やのどかな牧草地であったろうところは、大小重なりあった空爆痕の穴だらけで、今は動くものとてなく。

 白くひからびた骨はすべて粉々に砕け散って、元の形も、どれが誰の骨なのかも、判別のつけようがない。

 生きたものの姿は一木一草も、一頭の獣も一匹の虫さえもなく。
 破壊され尽くした土地の死の静寂と、風と沙のうめく音だけがあった。

 ただ一筋、いっそ奇怪なほどに無傷で端麗な、道路。

「戦災難民」を強制収容し、危険な地下資源の露天掘り人足として供出する、そのための運搬……軍用道路だ。

「行こうぜ。」

 岳人(がくと)は言った。

「……オアシスへ……。」



 そうだ、オアシスへ行こう。
 希望はまだ、残されているのだから。


 唯一の安全が確保されているクソ忌々しく快適な軍用道路を、一路、ジープは南へと向かった。




コメント

霧木里守≒畑楽希有(はたら句きあり)
2010年3月5日13:19

(2010.03.05.「ひみつ」から出しました☆)

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