根本に目を向けるとき
 
 アフガンの復興を心から願い、そのために心血を注いだ伊藤さんをめぐる今回の事態。なぜこれほどまでにアフガン情勢が悪化してしまったのか、その根本問題に目を向け、打開することが、伊藤さんの志を今後に生かす道ではないでしょうか。
 米国による報復戦争開始からまもなく七年。アフガンでは開戦まで、外国人が誘拐されたり殺害されるなどということはほぼ皆無でした。そのことを見ただけでも、混乱の事態の根本に、戦争の二文字があることは明らかです。
 伊藤さん誘拐のわずか四日前の二十二日、アフガン西部ヘラート州で発生した米軍主導の多国籍軍による空爆。国連がおこなった調査によれば、六十人の子どもを含む少なくとも九十人が無辜の命を奪われました。
 米紙ワシントン・ポスト二十七日付はアフガン高官の話として、同国ではこの二ヵ月間だけで百六十五人以上の民間人が空爆で死亡したと報じました。同紙は、この六月と七月だけで、二〇〇六年一年間に匹敵する量の爆弾が使用されたとする軍事評論家の指摘も伝えています。
 二十二日の空爆をうけて、アフガンのカルザイ大統領の報道官は「アフガン人民の我慢は尽きた」「これ以上、われわれの子どもたちが殺害されるのを見ることは耐えられない」と表明しました。
 日本政府が支援するアフガン戦争の七年間は、米軍らの攻撃で無数の民間人が殺害され、これが外国軍への憎悪をかきたてるとともに、アフガン政府の正統性への懐疑を広げました。タリバンをはじめとする武装勢力と犯罪者集団は、この土壌と混乱を背景に組織を伸張し、テロを含む攻撃を拡大してきたのです。
 アフガニスタンで活動する内外のNGO(非政府組織)の連絡調整機関、ACBAR(百組織が加盟)は一日、声明を発表しました。
 それは、今年一月から七月までに十九人のNGOスタッフが武装勢力などに殺害され、昨年一年間の殺害数をすでに超えたとしたうえで、次のように表明しています。
 
「われわれは軍事的手段によって扮装に終止符がもたらされることはないと強く確信している」
 
 新テロ特措法延長による戦争支援の継続に躍起になる日本政府は、今こそ、この「確信」に真剣に耳を傾けるべきではないか。
 
(小泉大介)
(『しんぶん赤旗』2008.08.29.)

 
 .

コメント

最新のコメント

日記内を検索