# …よかったわ、サキ。無事だったのね。さっきの爆発は一体なに? #
「大したことじゃないよ。それよりエリー、第2級非常態勢。研究所区の連中も残らず第1区画内に集めて。」
# 了解。 #
「被害状況はどうなってる? それと…」
壁面の映話機(ヴィジホン)でサキはどこだかと連絡をとっている。
あたしはと云えばその傍らで、目一杯、床に八つ当たりをしていた。
「…冗っ談じゃないわよ! たかだか9人……7人で、どうやってこ~~~んな広い所を守れって言うのよ。
海賊(あっち)も船が壊れて盲目宙域から出られない筈なんだから。必死なのよ!?
10倍からの人数相手に白兵戦やらせるつもりっ?!」
世間ではこういう状態をヒステリーという。
「まあまあ。そうトサカに来ないでも、何とかなるもんですよ。」
「…じゃ、ロルー、あなたが" なんとか "して見せたらどうなの!
「…わはは。」
「出来もしないくせに偉そうなこと言わないでちょうだい。やれるもんならあたしが自分でとっくの昔にどうとでもしてるわよっ!」
…せめて…
せめて、ここに居るのが借りものでない、地球に残してきた、いつものあたしの捜査班(グループ)だったら。
そしたらあたし、たとえ80人が100人の敵でも、ここまで神経質になりやしないわよ?
だけどでも現実にいま居るのは、まるっきり寄せ集めの混成部隊で。少ない手勢での接近戦の不利を埋めるためには必要不可欠の、無言で通じるチームワーク、ってものが、まず、望めない。
しかもそれがひとたび船外へ出てしまえば通信器も使えないという、この盲目宙域のド真ン中でのことなのだ。
「…” う~~~っ! みんな連邦政府が悪いのよ、こっちにはタイムリミットがあるっていうのに公式捜査権すらくれないでっっっ!!” 」
あたしは思わず母国語で叫んだ。
「っるせえな、ぎゃあぎゃあ喚くんじゃない!」
意味のわからない雑言はかえって気に触わるのか、怒鳴り返してきたのはレイだった。
「ガタガタしないでも誰もおたくらの手を借りようなんざ思ってもねえよ。
自分(てめえ)の船くらい自分(てめえ)で守る!」
「…へ~え、え。どうしようって言うのよ。」
腕を組んで、ひょろりとやたらに背の高い物騒な少女を睨み返す。
ふん。
わざとらしい金色のカラー・コンタクト。
「…アリー、喧嘩をする相手が違っているんじゃありませんか?」
ロルーがため息をついた。
「 解ってるわよ。すこし黙っててちょうだい。」
これでも一応、脳味噌は高速回転してはいるのよね。
ただ単に、さすがの "走りっぱなし" アリーさんも今度ばかりは妙策を思いつけなくって、イラついているだけで。
ふいっと人の存在を唐突に無視しきるとレイは交信中の映話(ヴィジ)に割ってはいった。
「エリー、バリアと主噴射管(メイン・ノズル)、どっちの被害が大きい?」
# バリアの補修を優先してちょうだい #
「オーケー。ケイを手伝いによこしてくれ。
…先に行ってるぜ。」
「 頼む。」
軽く手を上げて相棒が見送るより早く、青い髪はすでに数メートル向うを走り抜けている。
それを見送って、先刻(さっき)ものの見事に喰らった往復ビンタの跡も鮮やかな、ふくれた頬をさすりながらディームが呟いた。
「……アリーに勝ってる…。……おっかねェ姐ちゃんだぜ…」
「あのねええっ!」
どういう意味よッ?
サキが思わず吹きだして、
「じゃね、エリー。すぐにカタをつけちまうから、心配しないで。」
通話を切ると、くるりと振りむいた。
………本当に、凄いなァと思ったのよ。一瞬。
この娘、笑ったときと、きつい表情を見せた時とでは、がらりと雰囲気が違う。
ちょっとボーイッシュなだけのごくあたりまえの知的な少女の顔から…
厳しい戦士(ソルジャー)、それも一隊の指揮官の顔へ、と。
「2人、ここへ残って。あとはこっちについて来てくれる。」
手を振ってレインジャー部隊の人数を選(よ)りわけながらピシリと言った。
「人数の少ない分、地の利でゲリラ戦やるからね。" 外 "へも出るよ。酸素残量はいい?」
「ちょっと待って。とりあえずあなたに従うのはいいにしても、ソルテーン粒子の中でどうやって互いの連絡をとるつもり」
「んなもん心(テレ)…、あわわ。バリアが回復しさえすれば、内側では通じるんだけどなっ」
「たかが不可視障壁に、なんでそんな力があるのよ」
「不可視? ああ、そう云えばそうだっけ。そっちは単なる副作用で、開発中の特殊なフィールドなんだけどね。」
ニッと笑ってまた映話の回路をひらくと二言三言、早口に指示をつけ加えた。
「…それと、もう面倒だから3区から外の空気抜いちゃってよ。で、何かで1区から出なきゃならない子がいたら、必要がなさそうでも必ず全員に気密服(スーツ)、つけさせてね。部外者が介入してるんだから。」
# わかったわ。#
サキはスイッチを切らなかった。
「船中の放送(ヴィジ)、開けっ放しておくから、応援が欲しくなったら中央に怒鳴ってやって。
とにかく自分のパートを固守すること。
侵入者をうまく甥おとっせるようなら" 外 "へ出て… ここの反対側、船尾の方へ引っ張ってってくれ。」
あたし達の反応を見るように一拍の間を置いて。
「 行くよっ!」
一斉に走り出していた。
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