あたし達の追って来た、あの海賊船。

 同じくこの基地に体当たりしてしまって、やはりそのあたりを大破して漂っていた筈なのだ。

 壊れた船でこの盲目宙域を脱出しようというのは自殺行為に等しく、そして、あたしに思いつける程度の発想なら、奴らの頭にも浮かばないわけがない。

 この基地(ふね)を乗っとって逃げようというのだ。

 先刻の爆発は、まずその手はじめにと、すでに空っぽとは知らずにあたし達の乗ってきた保安局マークの艇を破壊した、のではないかしら。

「…まだまだ、まだ…」

 向かって来る火線を器用によけながら、荷物の行方を目で追ってサキが呟く。

 横目で眺めるあたしの視線に気づいて、ふっと、ちょいと凄いほどの迫力ある小粋な笑顔を浮かべた。

「今度は、本物の、海賊だね?」

 …ふふん。まぁ……なんて可愛げのない。

 ディームが戦列に加わり、ハンドバズーカが派手な火を噴いた。

 その光に照らされて、ぼろぼろに分解してしまったかつての保安局艇が見える。

 残骸群の向う側へとサキの投げた「荷物」が流れつくまでは、実のところ十数秒とかかってはいなかった。

「……今だ。レイ。」

「了解(ラジャー)っ。」

 ゆっくりと構えた銃口が50mばかりも先の小さな標的をたたく。

 刹那、サキは満身の力でエアロックを引きおろしていた。

 宇宙空間では音は伝わらない。

 けれど、扉の向うに叩きつけるものの連続した鈍い衝撃音で、何事が起こったのかは十分察しがついた。

 …きゃああああ!

 このコたち… 簡易手榴弾を、即製しちゃったわねっ?!

 エアロックの隙間に補修剤を使うので忙しいサキに、あたしはあくまでも軽く、だけど、銃口をつきつけかえしていた。

「たしかに海賊の仲間じゃない、てのだけは本当らしいけど。

 …だからってそれよりマシなもんだとも、思えなくなってきたわ。」

「 あはは。」

 銃など気にもせず平然と笑う。

 …シューッ…!

 鈍い音がしてエア・コンディショナーから暖かい濃い空気が流れだす。

 …驚いたコたちだわね…

 低圧訓練だけでなく、これだけの急激な気圧変化に、なにごともなかったように耐えられる… なんて。

 「 離しな。」

 言ったのはレイだ。コンコンと彼女の銃口があたしのヘルメットを叩いた。

「…冗談よ…あくまでも。」

 実は秘かに一瞬のスキを期待していたあたしは内心、舌をまく思いで、物騒なものをあっさり腰のホルスターに戻した。

 めいっぱい友好的な、極上の笑みを顔には浮かべて。

「とりあえず休戦協定を結びましょうよ。敵は70人乗り組みの海賊船なのよ。

 この基地には、戦力になる人間はどのくらい居て?

 こっちは9人だけなのだけれど、作戦行動に慣れてるから、あと30人も銃の扱えるのが居てくれれば、小班を編成して、かなり楽に…」

「 残念だけど。」

 あたしの言葉をさえぎって、サキとレイは皮肉に薄笑いしながら恐ろしいことを言った。

「わたしら2人だけだね。番犬は。」

「そんな… まさか!」

 さっき見たような子供たちばかり、てんじゃないでしょうね?! これだけの巨大ベースがっ!

「…こりゃあ、キツイなァ…。」

 のほほんと、特務部隊員のロルーは言った。




          …続く。…

 

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