『 ブラインド・ポイント ! 』 (1-9)
2017年8月11日 リステラス星圏史略 (創作)まるでスローモーション・フィルムよ。
レイが指さした先で、応急修理されたばかりの球状ドームの壁がぺらぺらと内側にまくれこもうとしていた。
「アリー伏せてっ!」
「えっ?」
あたしの体をくるみこんでロルー刑事がだっと倒れ伏す。
ディーム達や大勢の子供達がばらばらと床に体を投げだすのが、太い腕の間から見えた。
ばっ!!
…めくれかけた壁を一押しに圧しちぎる、一瞬の閃光と白熱。
爆風…
次いで逆方向へと一斉に吹き出していく空気。
ドン!!
と、鈍い二次爆発の衝撃が伝わる。
いきなり暗くなる照明。
「レイッ! エアロックをっ!」
「オーライッ!」
あたし達が起き上がる暇もないうちにサキが言い、レイが走り。
軸がゆがんで動かなくなっていたはずの通廊のはしの扉を、ふたりはどうやってか無理にひきずり下ろした。
酸素の流失は鈍り、…けれどコメカミが痛くなるほどに下がってしまった気圧。
「一体、なにが…」
「はやくメットかぶんなっ!」
呆然としているあたし達にレイが怒鳴る。
「みんなっ、大丈夫?! 落ちついて… 奥へ走るんだ!」
子供たちの誘導を始めるサキ。
「あなたたちは……」
あたしは慌てて壁の緊急時用収納箱(エマージェンシー・ロッカー)に走りよった。
カラだ。
だけど二人とも、他の子供たちと違って、最初から、簡易気密服(スーツ)すら身につけてはいないのよ。
「これをっ」
ヘルメットを外しかける。
隣でロルーも同じ動作をしていた。
事情はさっぱり判らないにせよ、万国共通、どんな子供をだって命を懸けて護るのは、警察官としての、義務だ。
「わたしらの心配はしなくていい! 低圧訓練ぐらい受けてるよ!」
叫んで、サキはロッカーの中から工作用のプラスチック爆薬をひとかたまり、ひきづり出していた。
保護封印(シールパッケージ)をはがし、一旦閉じたエアロックに駆けよる。
ふりかえって… 廊下の反対はずれから、年下の子たちの最後のひとりまでが姿を消しきるのを確認して。
「アリニカ警部、特務部隊のおにいさん、援護射撃、お願いしたい。
行くよ、レイっ!」
ごうっっ!!
ふたたび開けられた扉から、激しい音とともに宇宙船の生命が噴出していく。
灰色の髪が生きもののように前方になびいて、ゆるやかに弧を描く腕の先から風の流れにまきこまれ、漆黒の宙に投げ出されて行く、淡黄色の包み…
その行く先に、高速艇の残骸に隠れた、数人の人影が。
戸口に立つサキに火線が集中する。
身をかわす彼女。
ロルーの引き金が絞られ、あたしの銃が撃つ。
その頃になって…
ようやくあたしは事態を呑みこんでいた。
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