まるでスローモーション・フィルムよ。

 レイが指さした先で、応急修理されたばかりの球状ドームの壁がぺらぺらと内側にまくれこもうとしていた。

「アリー伏せてっ!」

「えっ?」

 あたしの体をくるみこんでロルー刑事がだっと倒れ伏す。

 ディーム達や大勢の子供達がばらばらと床に体を投げだすのが、太い腕の間から見えた。

 ばっ!!

 …めくれかけた壁を一押しに圧しちぎる、一瞬の閃光と白熱。

 爆風…

 次いで逆方向へと一斉に吹き出していく空気。

 ドン!!

 と、鈍い二次爆発の衝撃が伝わる。

 いきなり暗くなる照明。

「レイッ! エアロックをっ!」

「オーライッ!」

 あたし達が起き上がる暇もないうちにサキが言い、レイが走り。

 軸がゆがんで動かなくなっていたはずの通廊のはしの扉を、ふたりはどうやってか無理にひきずり下ろした。

 酸素の流失は鈍り、…けれどコメカミが痛くなるほどに下がってしまった気圧。

「一体、なにが…」

「はやくメットかぶんなっ!」

 呆然としているあたし達にレイが怒鳴る。

「みんなっ、大丈夫?! 落ちついて… 奥へ走るんだ!」

 子供たちの誘導を始めるサキ。

「あなたたちは……」

 あたしは慌てて壁の緊急時用収納箱(エマージェンシー・ロッカー)に走りよった。

 カラだ。

 だけど二人とも、他の子供たちと違って、最初から、簡易気密服(スーツ)すら身につけてはいないのよ。

「これをっ」

 ヘルメットを外しかける。

 隣でロルーも同じ動作をしていた。

 事情はさっぱり判らないにせよ、万国共通、どんな子供をだって命を懸けて護るのは、警察官としての、義務だ。

「わたしらの心配はしなくていい! 低圧訓練ぐらい受けてるよ!」

 叫んで、サキはロッカーの中から工作用のプラスチック爆薬をひとかたまり、ひきづり出していた。

 保護封印(シールパッケージ)をはがし、一旦閉じたエアロックに駆けよる。

 ふりかえって… 廊下の反対はずれから、年下の子たちの最後のひとりまでが姿を消しきるのを確認して。

「アリニカ警部、特務部隊のおにいさん、援護射撃、お願いしたい。

 行くよ、レイっ!」

 ごうっっ!!

 ふたたび開けられた扉から、激しい音とともに宇宙船の生命が噴出していく。

 灰色の髪が生きもののように前方になびいて、ゆるやかに弧を描く腕の先から風の流れにまきこまれ、漆黒の宙に投げ出されて行く、淡黄色の包み…

 その行く先に、高速艇の残骸に隠れた、数人の人影が。

 戸口に立つサキに火線が集中する。

 身をかわす彼女。

 ロルーの引き金が絞られ、あたしの銃が撃つ。

 その頃になって…

 ようやくあたしは事態を呑みこんでいた。


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