そのロルー刑事にレイとかいうのが歩み寄る。

 こかがみになって笑い死んでいたロルー、その一瞬、地に沈んだと思うと、

 だっ!

 ………

 見事な蹴りが相手の喉を狙い、次の刹那、一旦投げ出した銃が再び彼の手に握られ…

 て、いた筈だったのだけれど、いかんせん、敵も負けてはいなかった。

 蹴りあげた脚をタイミングでとっぱずし、瞬間速く銃把を踏まえつけている。

 もっとも、ねじりあげようとしたロルー刑事の腕にはあっさり逃げられているのだから、この勝負、まずは四分六くらいで、引き分け。

「、困るなァ、お嬢さん。できれば返してほしい。」

 へらへら笑いながらロルー刑事はこりた様子もなく立ち上がった。

 言っているのは、銃のことではなく、素速く抜きとられて相手の手のなかにある、なにか小さなモノのことだ。

 …" お嬢さん "…て、え~~!

 このまっ青な髪の特大背高(せいたか)カトンボ、女だったのっ?!

 …よくよく観れば確かにサキ、とかいう娘(こ)と同じ年頃の少女には違いない。

 少年じみた瘠せた体格に、尊大な、いかにも一匹狼くさい態度。

 右側に不自然なほどぱっと跳ね上がるクセのついた短い青い髪。

 それをかきあげながら、まるでトランプをでもあやつるように、" レイ "は、あたしを除く8人分の身分証明板(IDカード)を片手に広げた。


 困惑。


「…おい…、なんだって本物の保安局員証(けいさつてちょう)持ってやがんだよ。…闇で出回ってる偽造モンじゃないぜ、これ。」

「? 当たり前でしょ。その連中、保安局員なんだか…」

 なにかいじくっていたと思うと、パチンと音がして、手の中でロルーの薄いカードがさらに2面に割れた。

「 あ~~~。」

 ロルーがうめく。

「 " 特務部 " ! 」

 レイは叫んだ。

「 おいっ! なんだって特務部隊がこの《エスパッション》号を襲撃(おそ)わなくちゃならない?! 局長は一体何考えて生きてんだっ!」

 襟もと締めあげて派手に掴みかかる。科白の意味は不可解だけれど、それ以上のボルテージをもってして、あたしは金切り声をあげた。

「………" 特殊任務部隊 "ですってェっ?! 地球で言う情報局のことじゃないの!

 ちょっと! どういうことよロルーっ!? あなた平刑事のはずじゃなかったのっっ!」

 も、ほとんど絶叫、してやる。

 ロルーはやのあさっての方角へ向かって下手クソな口笛を吹いた。

「…だから、困るなァって、言ったんですよ…」

「困るなァじゃありません! どういう理由(ワケ)なの。地球連邦警察を侮辱するとっ! ……っ!?」

「あはん? 連邦(テラズ)?」

 自分の立場も忘れて仲間喧嘩をはじめたあたしに、背後から銃をつきつけていた" サキ "が、悠然と問いかけた。

 すっ。と、形の良い腕が伸びてあたしの手首のあたりでひらひらと踊る。

 …と。

 本人以外には簡単には開けられない筈のリストバンドから…

「あたしのIDカードッ!」

 思わず掴みかかるのへ2~3歩すばやく飛びすさって彼女はよけた。

 あいかわらず銃はきっちりとこちらへ向けたままだ。

「…わたしならもすこしはマシな嘘をつきたい所だけどね。地球の警察権がリスタルラーナ領域に介入してる点に関して、どう説明をつける気……えっ?!

 …" アリニカ・デュル=セザール、地球連邦警察所属、広域凶悪犯罪部第一課担当警部。…年齢…本籍地 "…」

 おもて見て、うら見て、指先で強度を確かめてみたりして。

「…本物ですねェ、これは。」

 首をかしげるなって言うのよ。まともな警察官が何の目的で偽の身分証明なぞ持って歩かなくちゃいけない?

 あたしは無性に腹が立って、

「………返しなさい。」

 つかつかと歩み寄ってカードをひったくってやった。

 銀色に光を弾く銃口なんて、この際無視よ。

「たいしたお手並みで。宇宙海賊がスリまでやるもんだとは知らなかったわ。

「………はん?」

 青い髪と灰色の髪とが、顔を見合わせた。

「…誰が… 海賊だって?」

 つんつん。

 あきれたようにサキが、銃の握りの方で、人の肩をつつく。

「なにをいまさ…ら…」

 下手なゴマカシをと強気に笑いとばそうとした。

 だけど…

 そういえばさっきも、辻褄の合わないセリフを聞いたような…

 …示されるままに周囲を見渡せば。

 子供たち。

 8歳くらいからせいぜい13~14歳の子供たちばかりが、あたし達のいる通廊の前後にかたまって不安そうに事のなりゆきを見守っているのだ。

 それは、壁面の応急修理を終えて戻ってきたのだろう連中と、先ほど、無防備なままにあたし達に銃もて追われていた一団に…

 間違いはなくて。

「…あ、あははははははっっ みんな、小柄なはずねっ!」

「…ここ、海賊予備軍の養成学校だったり………しませんよねぇ…。」

 事の重大さと責任問題にひきつりきっているあたしに引き換え、憎らしいほどごくのほほんと構えて、ロルーが云った。

 …と、その時…。


「 危ないっ! みんな逃げなっ……!!」


 なにかの予兆を感じとったかのように、振り向いて、青い髪のレイが叫んだ。
 

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