『 ブラインド・ポイント ! 』 (1-5)
2017年8月11日 リステラス星圏史略 (創作)…う……ん………
あたしは懸命に意識をとり戻そうとする。
…なによなによ。リスタルラーナ製のシートベルトってば、どうしてあんなにもろいのよ。あの程度の衝撃であっさりぶっちぎれ…
…うん?
この、体の下の、柔らかいものは何だろう…。
「 全員、無事? 宇宙服(スーツ)の気密を確認しなさい。…う~~っっ。」
コブ、できたわよ。これは完全に。
「大丈夫ですか、アリー?」
ヘルメットが振動して音が伝わる。
「へっ!?」
振り向いて、アセった。
投げ飛ばされたあたしを抱きとめるような格好で、壁と天井の境に体をふんばったロルー刑事が、ホールドしてくれていたのだ。
ごく淡くブラウンの入っただけの透きとおったヘルメット越し、10cm向うに彼の顔があった。
「きゃっ! …あ、あら。どうも有り難うっっ」
あわてて体を引き離す。…そうとして、あぶなくバランスを失うところ。
う~~む。
艇の人工重力装置、完全にいかれたな。
# ディーム班長、無事でーすっ #
# サイト,リスト、左手首挫傷。#
通信器を通して非常部隊側のメンバーが順ぐりに自己申告。
軽傷3名。あとは、無事か。
めっけもんだわね。
「…あなたは? ま、無傷みたいね。」
# そうでもないんですよ~。もろ、腰、打ちました。#
「ふふん。」
よく言うわ。あたしは薄ら笑って遠慮なく眺めまわしてやった。
厚みもあるくせに瘠せて見える背恰好。
緑がかった濃い金色の短い髪。
一見温和(おとな)しげな、黒緑色の双眼。
けっこう鍛えあがた筋肉をしてる割には、たしかにやってることはトロそうに見えるのよ。
だけどその分、頭ではいったい何を考えてるものやら?
わかりゃしない。
「ディーム。被害状況報告してくれる?」
# はいよ。第一外殻…と、こりゃ分解しちまった、つぅたほうが適当だなァ。
第二外殻大破。
第三…つまり、この部屋の壁だけどね。
やっぱり、どっかから空気が漏れつつある。 #
「なによ。ずい分もろいのね。未だ人間が生きてるって程度の衝撃なのに、そんなに壊れて。
…現在位置は?」
# 相手方の竜骨材(キール)の端にひっかかって止まってる。ついでに言うと、エンジンは未だ無事だけど、バリヤー発生装置が死んじまったから、この宙域(ブラインド・エアリア)から這って出るってわけには行かないよ。 #
「ふ~ん。…ま、最悪ね。」
「どうします?」
ロルー刑事がヘルメットをくっつけてくる。
う~~~。
なによっ慣れなれしい。
このインケン抜け作がっ
あたしは壁を蹴って無重力の室内を飛びはじめた。
「船外エアロック、まだ開く?」
# そこのドア出りゃもう宇宙空間さ。#
「 すてき。」
# なにをする気です? #
ロルーが追って来る。
ヘルメットの中、自慢の真紅の髪をふりたてて、あたしはみんなを見返した。
に~~っっこり ♪
白々しいほど優雅に笑う。
…おしむらくは、ヘルメットの色に半ば消されて、濃茶の瞳の輝きが半減されてしまうということよ…。
「…この艇じゃ脱出できないんでしょ?
じゃ、あちらの海賊基地、乗っ取ってやる。」
# でっ!! #
乗員(クルー)のひとりが叫んだ。
「みんな、武器は携行してるんでしょ?」
あたしは再びドアをめがけて泳ぎ出した。
小型艇 対 巨大ベースでは勝ち目はないかもしれない。
だけど、人間 対 人間。なら。
# " 走りっぱなし " アリーだって? #
# こういうのは、" 猪突猛進 "つぅべきだ!! #
ぼやきながら、しょせんはあたしと同じドンパチ愛好者らしいディーム班長以下「非常部隊員」(レンジャー)全員、シートの下からハンドバズーカやら何やらをひきずり出してついて来てくれた。
ロルー刑事もなにか照れかくしのような苦笑を浮かべつつ腰の銃を抜く。
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