…う……ん………

 あたしは懸命に意識をとり戻そうとする。

 …なによなによ。リスタルラーナ製のシートベルトってば、どうしてあんなにもろいのよ。あの程度の衝撃であっさりぶっちぎれ…

 …うん?

 この、体の下の、柔らかいものは何だろう…。

「 全員、無事? 宇宙服(スーツ)の気密を確認しなさい。…う~~っっ。」

 コブ、できたわよ。これは完全に。

「大丈夫ですか、アリー?」

 ヘルメットが振動して音が伝わる。

「へっ!?」

 振り向いて、アセった。

 投げ飛ばされたあたしを抱きとめるような格好で、壁と天井の境に体をふんばったロルー刑事が、ホールドしてくれていたのだ。

 ごく淡くブラウンの入っただけの透きとおったヘルメット越し、10cm向うに彼の顔があった。

「きゃっ! …あ、あら。どうも有り難うっっ」

 あわてて体を引き離す。…そうとして、あぶなくバランスを失うところ。

 う~~む。

 艇の人工重力装置、完全にいかれたな。

# ディーム班長、無事でーすっ #

# サイト,リスト、左手首挫傷。#

 通信器を通して非常部隊側のメンバーが順ぐりに自己申告。

 軽傷3名。あとは、無事か。

 めっけもんだわね。

「…あなたは? ま、無傷みたいね。」

# そうでもないんですよ~。もろ、腰、打ちました。#

「ふふん。」

 よく言うわ。あたしは薄ら笑って遠慮なく眺めまわしてやった。

 厚みもあるくせに瘠せて見える背恰好。

 緑がかった濃い金色の短い髪。

 一見温和(おとな)しげな、黒緑色の双眼。

 けっこう鍛えあがた筋肉をしてる割には、たしかにやってることはトロそうに見えるのよ。

 だけどその分、頭ではいったい何を考えてるものやら?

 わかりゃしない。

「ディーム。被害状況報告してくれる?」

# はいよ。第一外殻…と、こりゃ分解しちまった、つぅたほうが適当だなァ。

  第二外殻大破。

  第三…つまり、この部屋の壁だけどね。

  やっぱり、どっかから空気が漏れつつある。 #

「なによ。ずい分もろいのね。未だ人間が生きてるって程度の衝撃なのに、そんなに壊れて。

 …現在位置は?」

# 相手方の竜骨材(キール)の端にひっかかって止まってる。ついでに言うと、エンジンは未だ無事だけど、バリヤー発生装置が死んじまったから、この宙域(ブラインド・エアリア)から這って出るってわけには行かないよ。 #

「ふ~ん。…ま、最悪ね。」

「どうします?」

 ロルー刑事がヘルメットをくっつけてくる。

 う~~~。

 なによっ慣れなれしい。

 このインケン抜け作がっ

 あたしは壁を蹴って無重力の室内を飛びはじめた。

「船外エアロック、まだ開く?」

# そこのドア出りゃもう宇宙空間さ。#

「 すてき。」

# なにをする気です? #

 ロルーが追って来る。

 ヘルメットの中、自慢の真紅の髪をふりたてて、あたしはみんなを見返した。

 に~~っっこり ♪

 白々しいほど優雅に笑う。

 …おしむらくは、ヘルメットの色に半ば消されて、濃茶の瞳の輝きが半減されてしまうということよ…。

「…この艇じゃ脱出できないんでしょ?

 じゃ、あちらの海賊基地、乗っ取ってやる。」

# でっ!! #

 乗員(クルー)のひとりが叫んだ。

「みんな、武器は携行してるんでしょ?」

 あたしは再びドアをめがけて泳ぎ出した。

 小型艇 対 巨大ベースでは勝ち目はないかもしれない。

 だけど、人間 対 人間。なら。

# " 走りっぱなし " アリーだって? #

# こういうのは、" 猪突猛進 "つぅべきだ!! #

 ぼやきながら、しょせんはあたしと同じドンパチ愛好者らしいディーム班長以下「非常部隊員」(レンジャー)全員、シートの下からハンドバズーカやら何やらをひきずり出してついて来てくれた。

 ロルー刑事もなにか照れかくしのような苦笑を浮かべつつ腰の銃を抜く。


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