もう数週間もあたしは、とある宇宙海賊一味を追いかけ続けていた。

 あたし、地球系開発惑星連邦(テラザニア)の連邦星間警察所属、アリニカ・デュル=セザール。

 通称、" 走りっぱなし "(ハリーアップ)・アリー。

 いちど狙いつけたら逮捕(つかまえる)までは停まらない。

 その根性を買われてこの鳥月(とりづき)に警部に昇格したばかりの、腕っこき…なのよね、これでも。

 そのあたしが未だにたかが海賊船一隻、捕まえられずにいるのは、一体誰のせいなのかしら?!

 まったく…。

「…うるるるるるる~~~っ!」

「 わ、うならないで下さい。」

 ロルー刑事はおびえたようなフリはしつつ、平然と笑っていた。

「 ふん。」

 そりゃね、この艇で追跡をはじめてからもう10日に近いつきあいで、すっかりお馴染みのじゃれあいパターンに定着しつつあるとは言え、

 …あたしがこの連中に対して本気で腹を立てているのも事実なのよ。

 平然と冗談で片づけないで欲しいっっ!!

(……あ、まずい。また胃が痛くなってきた……。)

 ストレスが溜まりっぱなりよ、もう。

 あたしは嘆息をついて、渡された飲料パックに注意を向けた。

 ………あ~~っもう。

 こんなくだらないとこにまで機械仕掛けをつけてるから、エネルギー不足になるのよ、この国は。

 パック容器から吸い口(ストロー)を起こすくらい、手でやった方がよっぽど簡単でしょうがっっ!

 ひとくち含んで、うなる。

「………また、おんなじ味……。ちっとも甘くないわよ、これ。」

 全国一律、お茶(ティレイカ)といえば美味(あたり)不味(はずれ)もなく均一組成で出来ている文化って、どうかと思う。

 あたしの故郷ではね、お茶って言えば、熱い温い、濃い薄い、その人の好みによって出し方に差があって、更に砂糖を何杯入れるかだとか、牛乳との割合はとか、気に入りの香辛料と一緒に煮立てる地方なんてのもあるし、そもそもお茶っ葉というものの種類からして、ひとつに限らず無数にあって、それで…

 とにかくお茶の入れかたというのには、ティー・セレモニーって実践哲学(げいじゅつ)の分野もあるくらいで、そのひとの性格というか人柄が出るもんなんだからっ!

 実用本位の高速宇宙艇だなんて限られた空間でさえなけりゃ、気分によって容器の模様なんかにも、気を配るしね。

(…………あ~ん。ストローなんか嫌いだ。お気に入りのニャンコのカップが恋しいよォ…)

 そんなような事を一瞬考えて、あたしがどっぷりホームシックにつかりきった時だった。

 ロルー刑事が云った。

「そうですか? じゃ、今度からあなたのには糖分を0.2%ほど多くするよう、キッチンコンピューターに指示(インプット)しておきますよ。」

 …え~~~~い。

 死んでしまえこの唐変木(とうへんぼく)っっ!!

 ぐじゃっ!

 …と不吉な音をたてて、飲料パックが潰れた。


 

コメント

霧木里守≒畑楽希有(はたら句きあり)
2017年8月11日17:35

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