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E-Rotic - Thank You For The Music (ABBA Tribute) Full Album

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エスパッション・シリーズ vol.0


 ブラインド・ポイント

          遠野 真谷人

 1.

 眼前のスクリーンは、もやがかかったように見えにくかった。

 深宇宙。

 光点がひとつ、するすると逃げて行く。

「…ちょっとォ~! なに、してんのよ。もっとスピード上げてっっ!」

 連盟保安局の誇る高速宇宙艇のなかであたしは叫んでいた。

「無茶いうなよアリー。こっちだって精一杯やってんだぜ。」

 操縦席のディームが言い反す。

「だって、逃げちゃうわよ? 逃げちゃうっ!」

 ドン! …ぐら。

「頼むから闇雲にコンソール、ぶっ叩かないでくれっっ!」

 …やば。

 操縦士連中は必死になって航路をたてなおした。

 それでなくとも艇は先刻から奇妙な動き方をしている。

 相手の航路を計算・予測して常に邂逅点を設定しながら最短コースを選ぶ、という宇宙空間でのセオリーを無視しきって、文字通りに、追跡する… むこうの航路をそっくりなぞっているのだ。

 はやく!

 と、もういちど叫びだしたいのを、かろうじてあたしはこらえた。

 このあたりの星区には所々こういう場所がある。

 盲目宙域(ブラインド・エアリア)。

 その昔のエネルギー暴動の際の大事故のなごりなのだとかで、ばらまかれたサルテーン鉱石の粒子に重力波だか太陽からの電磁波だかが作用して、レーダーからスコープから、およそすべての艇の探査機能をマヒさせてしまうのだ。

 いまの頼りは一基の船外カメラだけ。それも、バリアーにさえぎられて弾ける微小な隕石群の燃える炎で、しばしばぼうっとした紫色に曇ってしまう。

(う~~~。どうかこれいじょう大きな隕石(いし)がそこらから飛んで来ませんように!)

 進むにつれ濃くなりまさるサルテーン粒子のかすかなきらめきのなか、ほとんど亜音速というトロトロしいスピードで、あたし達は決死の鬼ごっこをしているのだった。

 操縦士の苦労を思いやって少しばかり(少なくとももうコンソールだけは叩くまいと)おとなしくなったあたしに、くつくつと喉で笑いながら無重力用の密封パック飲料を手渡してくれる奴がいる。

 ロルー刑事だ。

「まあ、そんなに焦ってみても仕方がありませんよ、アリー警部。とにかく今は見失わないよう奴らを追尾する(つける)ことだけを考えて、ここを無事に抜けられさえしたら、それからまたあなた好みの派手な銃撃戦でも何でもやればいい。

 さもないと、見つけてくれる人もないままに、永遠の漂流者になっちまいますからね。」

 そうなのだ。通信器は最前までの撃ち合いであっさりおしゃかにされたまんまだし、このあたりは政府の実験宙域に指定されているとかで、他の場所なら1~2隻は見られるソルテーンの回収船も入ってはいないし…。

 ここで遭難した日には誰も捜しにも来てくれない。

 それでももちろんあたしは言い反した。

「よくも言えるわね。人ごとだと思って。こっちにはタイムリミットがあるのよっ!

 本当なら…!」

 そう。本当ならとっくの昔に奴ら、捕まえられていた、筈。



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