https://www.youtube.com/watch?v=I2bF1MJuAT4&list=PLwijtPhLBkg0SuGEn-YnDr71GSJEi-Txk&index=11
05 - 冨田勲 - 幻の王プレスター・ジョン
===============
停滞し、休憩し、そしてまたいつ果てるとも知れず始められる混乱のさなか、彼、ジョセス・ラン=アークタス極東う民生局長は呼び出されて議場を出、ロビー脇のテレビ電話の前にがっくりと座っていた。
宇宙人騒ぎで行方不明になっていた病弱な妻は見つかった…とは言う。
宙空に飛来した不思議な光点に皆が気をとられてしまっているわずかな暇に、どうしてか二十数キロは離れた都市にまでたどりつき、そこで" 侵略者 "への恐怖から行くあても知らず逃亡をはじめていた市民の暴走(スタンピード)にまきこまれたのだ。
右上腕と大腿の骨折。全身挫傷。
そのほか雑菌だらけの外気に触れることによって併発した種々の症状。
医師の説明で彼に判ったのはただ、そのままでも「覚悟はしておいて下さい」と言わせた妻の病名がさらに倍ちかく増えたらしい、ということだけだった。
なんとか赤児だけでも救けたいと、どもりがちに、彼と同じく彼女の…" 灰色の貴婦人 "の崇拝者であった医師は言う。
しかし、無理だろう。
はじめに彼女の状態を子供がまだ胎内にとどまっているのが不思議なほど、と形容したのは医師自身ではなかったか?
通話を切り、けれどその場から彼は動けなかった。
せめて… そばについて居たい。
が、ようやくに議事進行の糸口が見えはじめてきた今、極東諸民族数億の利益代表である彼がその場を離れるわけには行かなかった。
それにおそらく、8時間かけて空を飛んで帰ったところで、その時にはもう…
無駄だろう。
(( ! ))
そう、考えることに耐え切れず、彼は 涙を圧さえた。声を洩らした。
彼は妻を愛していた。本当に愛していたのだ。
「 …… どうしたのですか? 」
広いロビーの片すみにただ一人うずくまる彼を不審に思い、声をかけたのは、緑の髪のリサーク,ケティア大使だった。
「 え、…… 」
彼の驚きには構わず、かたわらのプリンターに打ち出されたままの病名簿(カルテ)の写しに、ついと手を伸ばす。
「お親しい方… あなたの奥さまが?」
気遣わしげな表情は彼にピエタを思い起こさせた。
力なくうなづく。
「 … そう… 」
地球の 先端 医療は決して野蛮な域にあるというわけではない。
が、しかし、やはり不治の病というものも多く残っているのだろう。
…若い国なのだ。
(国交を樹立したら是非、医療分野での技術交流も推進しなければ。)
まだ完璧とはお世辞にも言えない地球汎語で慣れない医学用語を読み下そうとしている時、ドアが開き、二人の 地球 連邦首人が随員とともに議場を抜け出して姿を現わした。
「 アークタス議員… 」
「ジョゼス。極東地区から急ぎの連絡が入ったと聞きました。奥方が危ないのではないのですか?」
「…戻っても間に合わないでしょう。もう… 」
「なんということ! 彼女の詩(うた)は…、いえ、彼女の存在それ自体が、私達とは別の意味で連邦統一の象徴でもあるのですよ。それが…」
全面抗争ともなれば、ようやくに固まりかけていた連邦の土台を根こそぎ揺るがすに違いないと、そうまで言わせた力を持つ最後の独立部族アイン・ヌウマ。
それを、部族の解散を宣言するという離れ業 を演じること によって無血のままにおさめた神秘の女性(にょしょう)。
退位後は、また詩人として、優れた言語学者として、各界トップの知識人層との親交を深めた。
彼女の常に変わらない確かさは、重責を担う者達にとって心の支えともなっていたのだ。
年若くして先代・統一者の後を継がねばならなかった、この二人の首人にしてもそれは同じことだった。
「よりによって… こんな時節に、…」
唇を噛む彼らの前に、
「かえって好機だったとも言えますわ。」
リスタルラーナ全権大使は陰になっていた電話ブースから出て緑の髪をさらした。
05 - 冨田勲 - 幻の王プレスター・ジョン
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停滞し、休憩し、そしてまたいつ果てるとも知れず始められる混乱のさなか、彼、ジョセス・ラン=アークタス極東う民生局長は呼び出されて議場を出、ロビー脇のテレビ電話の前にがっくりと座っていた。
宇宙人騒ぎで行方不明になっていた病弱な妻は見つかった…とは言う。
宙空に飛来した不思議な光点に皆が気をとられてしまっているわずかな暇に、どうしてか二十数キロは離れた都市にまでたどりつき、そこで" 侵略者 "への恐怖から行くあても知らず逃亡をはじめていた市民の暴走(スタンピード)にまきこまれたのだ。
右上腕と大腿の骨折。全身挫傷。
そのほか雑菌だらけの外気に触れることによって併発した種々の症状。
医師の説明で彼に判ったのはただ、そのままでも「覚悟はしておいて下さい」と言わせた妻の病名がさらに倍ちかく増えたらしい、ということだけだった。
なんとか赤児だけでも救けたいと、どもりがちに、彼と同じく彼女の…" 灰色の貴婦人 "の崇拝者であった医師は言う。
しかし、無理だろう。
はじめに彼女の状態を子供がまだ胎内にとどまっているのが不思議なほど、と形容したのは医師自身ではなかったか?
通話を切り、けれどその場から彼は動けなかった。
せめて… そばについて居たい。
が、ようやくに議事進行の糸口が見えはじめてきた今、極東諸民族数億の利益代表である彼がその場を離れるわけには行かなかった。
それにおそらく、8時間かけて空を飛んで帰ったところで、その時にはもう…
無駄だろう。
(( ! ))
そう、考えることに耐え切れず、彼は
彼は妻を愛していた。本当に愛していたのだ。
「 …… どうしたのですか? 」
広いロビーの片すみにただ一人うずくまる彼を不審に思い、声をかけたのは、緑の髪のリサーク,ケティア大使だった。
「 え、…… 」
彼の驚きには構わず、かたわらのプリンターに打ち出されたままの病名簿(カルテ)の写しに、ついと手を伸ばす。
「お親しい方… あなたの奥さまが?」
気遣わしげな表情は彼にピエタを思い起こさせた。
力なくうなづく。
「 … そう… 」
地球の
が、しかし、やはり不治の病というものも多く残っているのだろう。
…若い国なのだ。
(国交を樹立したら是非、医療分野での技術交流も推進しなければ。)
まだ完璧とはお世辞にも言えない地球汎語で慣れない医学用語を読み下そうとしている時、ドアが開き、二人の
「 アークタス議員… 」
「ジョゼス。極東地区から急ぎの連絡が入ったと聞きました。奥方が危ないのではないのですか?」
「…戻っても間に合わないでしょう。もう… 」
「なんということ! 彼女の詩(うた)は…、いえ、彼女の存在それ自体が、私達とは別の意味で連邦統一の象徴でもあるのですよ。それが…」
全面抗争ともなれば、ようやくに固まりかけていた連邦の土台を根こそぎ揺るがすに違いないと、そうまで言わせた力を持つ最後の独立部族アイン・ヌウマ。
それを、部族の解散を宣言するという離れ業
退位後は、また詩人として、優れた言語学者として、各界トップの知識人層との親交を深めた。
彼女の常に変わらない確かさは、重責を担う者達にとって心の支えともなっていたのだ。
年若くして先代・統一者の後を継がねばならなかった、この二人の首人にしてもそれは同じことだった。
「よりによって… こんな時節に、…」
唇を噛む彼らの前に、
「かえって好機だったとも言えますわ。」
リスタルラーナ全権大使は陰になっていた電話ブースから出て緑の髪をさらした。
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