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08 - 冨田勲 - 天空からの眺望


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 連邦統合政府の奥まった一画では辺境星域~まさに世界の最外縁~からひんぴんに送られてくる報告に、秘かに、だが決して穏やかなどではなく、それこそ煮えるような騒ぎの様相を呈していた。


 …彼女のサンルームでいくらかの時間を過ごすうち、彼の手首で身分証が静かに音と光を発して持ち主の注意をうながす。

 滅多に使われる事のない行政会議の緊急呼集だった。

 極東民族区の民生総局長である彼は速やかに応えなければならない。

「なんだろう?」

 ちょっと行ってくるよ、と、いつものように笑顔で、彼女の淡灰色の髪に唇づけして去る夫の姿に…

 彼女は突然、言いようのない恐怖を感じて、竦んだ。

「…待っ………。」

 けれどもそれは彼に関わる未来視(さきみ)ではない。

 正体をつかまぬうちに夫はドアの向うに消え、彼女はただひとり不安のなかに残された。

 刻々と、得体の知れない焦燥は胸に増すばかりである。

 やがて彼女は畏怖や苛立ちが外部から訪れたもの…

 何十キロもの草原をへだてた街や、さらには地球を覆う人々のネットワーク全体から発せられた動揺がそのまま心に忍び入ってきたのだったと気付く。

 顕著な感情同調の脳力は部族民の特質のひとつに数えられていた。

 制(おさえ)ようのない不安。

 どうしたと言うのだろう。

 …病んだ、退位した、とは云え彼女の心は生まれながら人の上に立つ者のそれであり、見捨てられた赤児のような身の置き所のなさを、民心のなかに放置しておくわけにはいかなかった。

「………いったい………」

 病室には彼女の神経の負担になり得るものは何一つ置いてはなく、外のニュースを得ることは不可能だった。

 苦手な屋内回線をまわしてみても今日に限って、同居の両親も看護婦すらも在室していないらしく、何の反応もない。

 彼達が彼女を一人にするなど普段なら考えられない事だった。

 種々の 探知機器 検知器や電脳が壁に埋めこまれて常時監視の体制をとっていることぐらい、機械嫌いの彼女でも知っている。

 ………それだけ、起こりつつある事態は異常だ、ということだった。

 外の人々同様の熱的な恐怖と、また、ともに冷徹な統制者としての意志力とを抱きながら、完全に二つに割れてしまった心の叫びのなかで斎姫はのろのろと立ちあがる。

 長いながい、身の丈ほどもある淡灰の雲の色の髪が椅子の腕にからみつくのを振りほどいて。

 …

 彼女は、滅菌された病室(サンルーム)(牢獄)のドアを後にした。



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