「……おれァ……」
運転席で言いにくそうに切りだすのを聞いても、杉原はしかし驚かなかった。
「あそこ辞めるよ。」
「うん」
何週間ぶりかで戸外の風景を見る。
窓をあけて、少し風を入れて。
「今度のことでよォく判った。おれにゃあんな男ばっかりの閉鎖社会は絶対に向かないね。異常だよ。女っ気もなく…
熱気が内側にばっかり暗ァく籠っちまう。」
「うん。」
「おまえの件… な。」
秦はハンドルの手を離して煙草に火をつける。
「警察と報道関係はなんとか押さえたんだが、基地には事情聴取の刑事が行ったりなんかして、な。
たぶん… 全員に知れ渡っちまってるだろうと思う。」
「 ……… 」
「司令は転属の話を出してた。」
「うん。」
「 …なぁ。」
「え?」
「…いっそ… おまえも民間に来ないか?
待遇だってそう悪くはないし…まともに女のいる世界なら、おまえだって、あんな変な…」
「………有難う。」
秦の言葉をさえぎって、杉原は答えた。
「でも、やめておくよ。おたくの副操縦士(コ・パイ)っていうのは魅力的だけど、今さら民間に行って、やっていける性格でもないし。それに…」
おれは、好きだよ。あの狭いコクピットが。
パーサーや大勢のデス達に囲まれてのコンビではない、大空での、2人きりという、つきあいかたが。
…
好きだったよ…
…
「やっぱり、ナビゲーターの方が向いているよ、おれには。」
口に出しかけた言葉を途中で言い換えて、それきり栗原は黙りこんだ。
助手席のシートに体をうずめる。
秦は黙ってハンドルを握っていた。
風が、吹いている。
………さよはら、秦。
おれの相棒(パートナー)ではなかった、だけど、おれのことを信じると言ってくれた。
最初の…
https://www.youtube.com/watch?v=3ewIr-FQZl4
RAY 人と心
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