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2017年5月18日 恋愛



「……おれァ……」

 運転席で言いにくそうに切りだすのを聞いても、杉原はしかし驚かなかった。

「あそこ辞めるよ。」

「うん」

 何週間ぶりかで戸外の風景を見る。

 窓をあけて、少し風を入れて。

「今度のことでよォく判った。おれにゃあんな男ばっかりの閉鎖社会は絶対に向かないね。異常だよ。女っ気もなく…

 熱気が内側にばっかり暗ァく籠っちまう。」

「うん。」

「おまえの件… な。」

 秦はハンドルの手を離して煙草に火をつける。

「警察と報道関係はなんとか押さえたんだが、基地には事情聴取の刑事が行ったりなんかして、な。

 たぶん… 全員に知れ渡っちまってるだろうと思う。」

「 ……… 」

「司令は転属の話を出してた。」

「うん。」

「 …なぁ。」

「え?」

「…いっそ… おまえも民間に来ないか?

 待遇だってそう悪くはないし…まともに女のいる世界なら、おまえだって、あんな変な…」

「………有難う。」

 秦の言葉をさえぎって、杉原は答えた。

「でも、やめておくよ。おたくの副操縦士(コ・パイ)っていうのは魅力的だけど、今さら民間に行って、やっていける性格でもないし。それに…」

 おれは、好きだよ。あの狭いコクピットが。

 パーサーや大勢のデス達に囲まれてのコンビではない、大空での、2人きりという、つきあいかたが。

 …

 好きだったよ…

 …

「やっぱり、ナビゲーターの方が向いているよ、おれには。」

 口に出しかけた言葉を途中で言い換えて、それきり栗原は黙りこんだ。

 助手席のシートに体をうずめる。

 秦は黙ってハンドルを握っていた。

 風が、吹いている。



 ………さよはら、秦。

 おれの相棒(パートナー)ではなかった、だけど、おれのことを信じると言ってくれた。

 最初の…






https://www.youtube.com/watch?v=3ewIr-FQZl4
RAY 人と心


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