台風一過。
無責任に笑いころげながら杉原は神野の頬を冷やしてやっている。
何故か杉原のほうには何の被害も出ていないのは…何故なんでしょうねェ…?
「おい杉ィ。ンな面白がるこたねーだろ。」
字義どうりの "ふくれっつら" で神野が抗議する。
「知るか。もとはといえばおまえがバカな気をまわすのがいけない。」
「バカで悪かったなっ!」
「おー。悪い、悪い。」
…神野の弁によればこうである。
一週間前、 "あの2人は実は…" 説が職場じゅうに広まりだした頃。
御丁寧にもオセッカイなやつがあらぬことないこと神野に吹き込みに来た。
それによると「杉原が神野に悲しき片想い」なのだそうで…。
もちろん言う奴が言う奴だ。(うげ!)と思っただけでヘキエキして神野は逃げ出したのだったが…
その後で偶然、杉原の手帳の中に大事そうにしまわれている自分自身の写真を、見つけてしまった…。
(それはその前の宴会の時のもので、たまたま「渡しておいて下さい」と言われて預かっていたに過ぎなかったのだけれど。)
そこは単純な神野のことである。そこまで思考がまわるはずもなく、
手帳の中の写真⇒「悲しき片想い」。
…の構図が、どんと頭にのしかかってきてしまった…。
「…すこしは杉原さんの気持ちも察してあげないと…」
などと訳知り顔に言って去ったオセッカイ野郎の声がエコーまでかかって頭の周囲を飛びまわったりして…
…で。
完全なる誤解にもとづいて、「杉原の気持ちを察した」直情径行男は、もっとも基本的な愛情表現へと直行してしまったのだ。
数日後に、既に誤解はとけていたのだったが…。
(………どうりであの写真わたした時、慌てまくったわけだ…っ☆)
今にもまた吹き出したいような表情で、杉原はまた氷水をとりかえに立ち上がった。
暖房のきいている室内とはいえ、2月だ。
あまり何度もタオルを絞っているせいで、いつもは白い指先が真っ赤に染まっていた。
だが当人は別段それに気づいた様子もなく、器用に氷を砕いては洗面器を満たしてくる。
「………杉。」
傍らに腰をおろして再び水に手をつっこもうとする杉原の指先を、神野は何気なくヒョイとおさえた。
「なんだ? 神さん。まァた変な気ぃ起こすようだと、こうだぜ?」
冗談でアイスピックが光る。
「アホーっっ …手ェ。真っ赤だぞ。」
「ん~? …あ。んじゃ、これでよしにするわ。」
「ん。」
軽く肯きながらも神田は相手の指をはなさずに、暖められないかとこすってみていた。
「…おー、よっく冷えとる。」
無意識に、自分の熱をもった頬にあてがって、上から軽く握る。
じ…っと、杉原を見つめて。
「…おい神野っっ」
しばし、沈黙。
表を車が走り過ぎる音。
「…おまえ…」
とうとう神野は妙に視線を宙に泳がせるような中途半端さで、気にかかっていたことを口にのぼせた。
(…以下、「ひみつ日記に自粛」シーン…っw)
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