(草稿 12) (没ページ)
(草稿 12) (没ページ)
(草稿 12) (没ページ)


(泣くなよ…)

 夢を、視ていた。

(泣くな…)

 ああ、そうだ。

 あの頃、古い小さな借家で、ふたりの家はお隣さんで。

 生垣のかげでうずくまる子供の腕には焼かれてしまった人形。

 背のたかい女の人は黄色いスーツを着てどこかへ行ってしまった。

 帰ってきた女の子の父親は、電話をちぎって投げ飛ばし、ドレスやら鏡台やら、残された女のものはすべて庭の焚き火に投げ捨てて。…次には子供の絵本やカーテンまで。

(燃えちゃったの)

(泣くなってば)

 どろどろになったセルロイドの残骸をふたりしてお墓に埋めた。

 膝をついて泥を掘っているのに白いふわふわした服にはなぜだか汚れもつかず、長くのばしたおさげ髪がゆれて…

 小さな、小さな女の子。

 次の朝あったとき、その子は、もう髪を切り男の服を着て、きのうまでのようではなくなっていたけれど…



(おまえなんか、嫌いだっ!)

 すっかり憎たらしく成長したまこがスタジャンにジーンズ姿で言う。

 めでたくも、まわりは振袖きつね襟巻の大群…合格祈願だと誘いだした(じつは顔が見たかったのだ)新年も一月一日で。

 年末いっぱい強火で煮こんでいたらしい焦げた心理状態






(泣くなよ…)

 夢を、視ていた。

(泣くな…)

(燃えちゃったの)

 暗い生垣のかげにうずくまる、子供の腕には焼かれてしまった人形。

(燃えちゃったの)

(泣くなってば)

 小さな、ちいさな女の子。

 つぎの朝あったとき、その子は、もう髪を切り男の服を着て、きのうまでのようではなくなっていたけれど…

(たかぁっ、早く!)

 白い脚(あし)をむkだしに伸ばしてどこまでも駆けてゆく。

 対等で、対等以上で、いつだって言いだすのはまこ、走るのもまこだった。

 そうして…

 泣くのも、ひとに謝るのも、まこのほうが先なのだ。



(たか… だいじょうぶ……?)

 耳元で小さく呟かれた声に、うん、と貴明は答えた。




 目が覚めると、朝である。

 庭先のすずめの声に、はりかえたばかりの白い障子ごしに射しこんでくる眩しさ。

 まこの家だ。

 ぼんやりと首をめぐらせるとそこにまこがいた

 着物… 和服だ。







「だれが裏切ったって?」

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